2011.11.16 Wednesday
リスボンの散歩
リスボン市内に入った途端、大渋滞に巻き込まれた。
牧歌的な田舎の村と比べると騒々しさはあるけれど、
西ヨーロッパの各国の首都に比べたら
穏やかな空気が漂っているように感じる。
ここまで乗せてくれたおばちゃんは、
「困った事があったらここに電話するのよ」
と名前と番号の書かれた紙切れをくれた。
高台になった広場のベンチに腰を掛け辺りを見回すと
起伏に富んだ町はとても複雑で、
どこへ向かったら良いか分からない。
とりあえず、視線の先にある城を目指して
気ままに歩き始めると建物の隙間に大西洋が見えた。
その時に初めて西の果てに来たのだと実感し、何だか嬉しかった。
リスボンには古くて素敵な集合住宅が至るところに建っている。
なかには外壁が花模様のタイルで覆われている建物もあり、
美しいタイルを見ているだけでも町歩きが楽しい。
ポルトガルは青い装飾タイルのアズレージョが有名だ。
教会や駅などにも大掛かりな連続模様が描かれていたりする。
庶民的な花模様は街角を彩り、至るところで目を引く。
古く剥がれ落ちてしまった箇所の修復にはめ込まれた
違う模様のタイルがまた絶妙で美意識が感じられる。
大きな広場に出ると、一坪ほどしかない小さな店に
人々が集まっているのが目に入った。
店内の棚には同じラベルのボトルがずらりと並んでいる。
ここはジンジャというサクランボの果実酒のみを扱う店だった。
マスターは同じ注文を同じ手つきでこなしていき、
客も皆同じように店の前で立ち飲みをして
グラスをカウンターに戻し去って行く。
やっと順番がまわり、
赤黒い液体がショットグラスになみなみと注がれた。
グラスを傾けると、濃厚な甘さが一気に口に広がった。
底に残ったふやけたサクランボを口に含みグラスを戻す。
店構えに惹かれて、老舗のカフェに入りコーヒーを頼む。
客で溢れる活気ある店内でウェイターは忙しそうにしている。
妻はウェイターにぶつかりながらも
お菓子のショーケースの前でじっと悩んでいる。
結局小さなクッキーを2枚だけ買ってきた。
どうやら2ユーロで詰め合わせを頼んだらしいが、
2枚しか買えなかったらしい。
それを見て思わず笑ってしまった。
2ユーロあったら、ルーマニアではクッキーが山ほど買える。
その感覚で小銭を握りしめても、ここでは通用しない。
注文したコーヒーも忘れられているようだったので、
2枚のクッキーを半分ずつ味わって店を出た。
坂道の多い小道に迷い込んだと思ったら、
リスボンの下町・アルファマ地区に入っていた。
古びた建物が多く、味わい深い場所だ。
やっと急な坂道を登ったと思えば、今度は長い下り階段が続く。
リスボンの入り組んだ地形は、坂の途中でふと足を止めて
辺りを見渡す度に違った表情を見せてくれる。
アルファマ地区は他では見られなかった、
子供が路地で遊ぶ姿やおばちゃんが洗濯物を干す姿があって温かい。
壁面に描かれたキノコやウサギの落書きも愛らしいものだった。
ふたり通るのがやっとの細い道に小さなお菓子屋を見つけた。
先程思ったようにお菓子が買えず、がっかりしていた妻の目が輝いた。
アズレージョがあしらわれた店内に並ぶ伝統的なお菓子は
素朴なものばかりで、気取らない値段だった。
ようやくコーヒーを飲んで一息ついた。
広場からすぐ目の前に見えた城にようやく辿り着いたのは夕方だった。
中に入ることはできなかったけれど、塀の上によじ登り
リスボンの町がゆっくりと茜色に染まっていくのを眺めていた。
text by : tetsuya
| ポルトガル旅日記 | comments(0) |