京都三人旅 *京見物編*


盆地の京都では、じりじりと照る日射と
お天気雨のように突然降り出す雨とに見舞われました。
日中のほとんどが日向に少し居るだけですぐに汗が吹き出すような
真夏日以上に真夏日、というようなとても暑い気候でした。

日傘をさして向かったのは、以前から気になっていた「京都芸術センター」。
ここは明治に建てられた小学校の校舎をそのまま利用した建物で、
様々なジャンルの芸術的な催しを行っています。
私が今まで歩んできた中で”校舎”という響きに一番適している場所は
やはり小学校のような気がします。
きれいに並んだ教室の机と椅子、大きな黒板に粉っぽい黒板消し、
幅広の階段や、横並びの水道の蛇口、、、。
どこを切り取っても、淡く懐かしいぼんやりした思い出が蘇ってきます。
ここではほとんどの時間を、解放されていた一つの教室で過ごし、
椅子に座ってみたり、教壇に立ってみたり、古いそろばんを触ってみたり。
童心に返るひとときでした。
 
黒光りのする小さな机と椅子。 教室の入り口は思い出の入り口。

校舎はコの字型になっていて3階建て。
隅々まで歩いてみると、普通の校舎のように画一的でない凝った造りで
とても素敵な要素が多く、それはよく考えてみれば無駄な要素が多い。
今では削除されるであろう無駄な小さなスペースこそが
子供達の一番落ち着く場所であり、楽しみの生まれる場所、
秘密の場所なのではないかなと思いました。
自分一人が入れるような所で、
鬼ごっこなんかでひっそりと隠れていた事を思い出します。
 
古い蛇口の付いている水場。 アーチ形の素敵な窓枠。

とても古い建物なので、木材の傷み具合が良い感じ。
階段のきしむ音や木の床に椅子を引く音などがなんとも言えず良いのです。
それでも手入れが行き届いていて小綺麗で気持ちの良い空間なので、
木の床を、ぞうきんに両手をついて走って水拭きしたのは
いつ以来だろうとつい考えてしまいました。
 
がらりと開ける扉に、ぎしりと上る階段。

物心がつき始めた頃の記憶は断片的で、
小学校低学年の頃の事は印象深い事しか思い出せないのですが、
ここへ来てなんだかじわじわと少しずつ蘇ってきました。
太陽が差し込む大きな窓のある教室で、
このぼんやりした感じがなんとも心地良かったです。



その日の夕刻、閉館時間が迫りつつ焦って向かったのは
友人の薦めで訪れた「河井寛次郎記念館」です。
芸術家河井寛次郎が生前住んでいた自宅です。
日本各地の民家を参考にして、独自の構想のもとに設計されたこの家で
作品づくりに励んでいたそうです。
多くの作品、そして彼をとりまく多くのものがここにはありました。
 
とても落ち着く古民家。田舎の家に遊びに来たような感覚になる。

河井寛次郎は陶芸を中心に彫刻、さらに執筆や書も制作する
多方面で活躍する作家で、どれも情熱的でありながら愛嬌のある作品でした。
そんな作品群もさることながら、調度品がとても素敵なのです。
ほとんどが自身で制作したもの、またはデザインしたもので、
芸術家らしい突飛な感じは無くて、落ち着いた素朴なものが多く
この古民家に本当によく調和していました。
 
休憩室にあった革張りの椅子。 自宅2階にあった籐の椅子。

住居スペースと同じくらいある広い中庭を通ると
向かいには可愛らしい形をした素焼き窯があります。
作陶の第一段階の素焼き、この前に座って薪をくべていたのでしょうか。
焼き上がりに思いを馳せる良い時間だったに違いありません。
その少し先には大きな登り釜があって、地下まで掘り下げられた場所から
数段続きます。中が覗けるようになっていて、
器や壷などの陶器が重ねてたくさん並べられていました。
薪も煉瓦もそのへんに散らばっていて当時の様子を垣間見れたようでした。
 
独特な形の素焼き窯とその奥にある大きな登り窯の中。 

窯と窯の間には休憩室、その手前にはとても小さなお茶室もあって
のびやかに作品づくりをしている様子が伺えました。
そして、窯と自宅を結ぶ渡り廊下を通ると、洗面台があります。
記念館の配置図にも記載されていないし、誰も注目しない箇所
だとは思いますが、ここは私が最も気に入った場所でした。
暗い廊下の終わりに突然白いタイル張りの洗面台が現れます。
なんともないただの洗面台ですが、ちょこんと置かれた黄色い花が
白地に浮いてとても綺麗でした。すり減った石鹸も良い感じです。
ここの凛とした空気がなんとも良かったのです。
そのすぐ脇には小さな鏡台もあってそこにも小花が挿してありました。
館内の花は豪華さこそ無いけれど、少しずつ所々にあって
とても可憐で素敵な生け方で目を楽しませてくれます。
 
洗面台と石鹸と黄色い花。

そして、何と言っても家の造りが面白く、空間をとても上手に利用していて
こんな家に住みたい!と心底思うような家なのです。
まず記念館の扉を開けて一歩入るだけで、ここは素晴らしい予感がすると
感じたほどでした。今まで居た外の雑踏を一掃させるような雰囲気でした。
家自体は、広いといえば広いのですが、大きな場所を割いている部屋は無くて
どの部屋も(たぶん)4畳〜10畳程度でこじんまりとしていますが、
思った以上に部屋数がたくさんありました。
あっちにもこっちにも小部屋があって何だか迷路のよう。
畳の上に座卓、そして脇にはちょこんと作品があったりして
最初は座って作品を見、足を崩して作品を見、最後は寝転びながら
寛次郎の詩集を読んだりしていました。
閉館直前で、お客は私たちだけだったので、随分くつろいでしまいました。
心から落ち着ける素敵なお家でした。
 
寛次郎がよく座っていた机。とそこから見える窓の景色。
記念館の周りの建物も古く、窓を開け放していても景観が良い。

帰るのが惜しいと思わせる、魅力溢れる場所でした。
閉館時間に押されるように帰り支度をしましたが、
心は十分に満たされました。
また京都に訪れる機会があれば”河井家に遊びに行く”
ように訪れたいなと思いました。
 
芳名帳の脇には使い込まれた硯が。 館内は靴を脱いで上がります。

記念館を出ると大粒の雨が降ってきました。
この記念館の界隈は京都らしい建物が続いていて風情のある小径で、
雨がとても良く似合う。
雨の日も晴れの日も曇りの日も、
居心地の良い家と全身全霊を捧げて打ち込める何かがあれば
これほど素晴らしい生活はないのではないかなと思いました。
そのお手本を見せられたようでした。

(一番上の写真は法然院。よく知られている名所以外の
私の印象深かった二カ所をご紹介させていただきました。)

<*京見物編おわり*>

text by : yuki
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