ほんの少しの遠出 立川編


春の天気は落ち着かない。
燦々と陽光が照りつけていたかと思うと、急に曇って雨が降り出したり、
雨の予報が出ていても、日差しが突然現れたり。
春の晴れは3日ともたないと言われているのも頷けます。
この日は湿った灰色の曇り空でした。
いつ降り出すかわからない空を見上げながら、立川へ向かう。

目的は、美味しいパンを食べる事。
パン好きには有名な名店、ゼルコバへと行ってきました。
以前に行った時も温かくなり始めのまだ少し肌寒い曇りの日で、
偶然にもちょうど1年前の春だったと思います。
少し温かくなってくると行きたくなる、田舎のパン屋さん。

ゼルコバへは、たくさんの乗り継ぎをして、人気のない道を歩いて
やっとたどり着くという所にあります。
車窓からの風景にだんだんと自然が目立つようになると近づいている証拠。
最寄りの西武立川駅からの15分ほどの徒歩がまた良くて、
だだっ広い空き地やちいさな踏切の音、民家の手入れの行き届いた庭など
全てにゆるやかな時間の流れを感じます。

近くまで来ると控えめな看板がいくつか見えて、
それが目に入るとやっぱりいつ来ても良いな〜と思います。
広い庭をぐるりと廻り、店頭に並んでいる自然農法で自家栽培している
新鮮野菜を見ながら中へ入ると、香ばしい良い匂いが漂っていました。
 
薪の上に置かれた手書きの看板。   取れたて野菜の販売。

ここは大正時代に建てられた蚕室を改装して造られたお店です。
いくつもの太くて黒い柱に支えられた平屋で、
天井が抜かれていて梁がむきだしになっています。
上を見上げると屋根の形そのままの傾斜が見えてとても広々としています。
木材の古さやそのこっくりとした色から年輪の重なりを感じます。

店内はパンの並ぶスペースと買ったパンを食べられるカフェスペースがあります。
真ん中にある”ZELKOWA”の名前入りの小さな薪ストーブを囲むようにして、
昔映画館で使われていたような3席並びの連なった木製の折りたたみ椅子や
スポンジがむしれてしまった布ばりの椅子や手作りのような長椅子など
全く違う様々な表情の席があるけれど、不思議と調和がとれていて
とても落ち着く空間です。
そんな店内も良いのだけれど、でも私たちは肌寒いのを承知で
まずはやっぱり外の無骨な木の机とベンチに席を決めました。

パンは、そんなに人が出入りしている気がしないのに
あっという間になくなります。本当に早い。
(たぶん、穏やかな雰囲気が人気を感じさせないのでしょう。)
まずは大好きなバナナのパンを選ぶ。それから3種のレーズンのパン、
イチジクとクリームチーズのパンとコーヒーを頼みました。
 どれも素朴なパン。

バナナのパンはパウンドケーキ型で、好きな大きさにカットしてもらえます。
たくさんバナナが練り込んであるようでずっしり重く、
モチモチした食感とほんのり甘い後味がたまらなく良いです。
レーズンも自家栽培しているようで、レーズンやそれよりも小ぶりのカランツが
ぎっしり入っていてくどくない心地よい甘さがとても美味しいです。
素材にこだわっている天然酵母のパンは本当にどれを選んでも美味しい。

何よりも良いと感じるのは、天然酵母というと
わりと酸味が強いものが多いですが、ここのパンはとてもまろやか。
まわりは香ばしくパリっと歯ごたえがあって、石窯ならではの味わいがあり、
中はフワフワだけではない、モッチリと粘りのある滋味あふれるパンです。

上には真っ白な空と、目の前の庭には椿が綺麗な赤色の五弁花を開いていました。
サワサワと木々の揺れる音が聞こえて、その下をのっそりと猫が横切ります。
この中で食すという事が一番の贅沢かもしれません。

完食して次のパンを選びに行き、今度は席を店内に移してもらう。
外は気持ち良いのだけれど、長時間居るとやっぱり寒いのです。
店内で食べるのもまた居心地良く、のんびりおしゃべりをしながら
以前実家で作ったように、自宅の小さなオーブンでも
美味しいパンが作れるかな〜などど考えていました。
焼きたての良い匂いのパンはどんな人でも幸せにする力があります。
  
素敵な庭を抜けて店内へ。 入り口にあった窯用のパン焼き道具。

随分と長居をして満足し、お土産のパンを買って店を出る。
以前来た時に居た犬たちを見たいと思ってお店の裏に行ってみたけれど
残念ながら不在だった。
でも、扉の閉まっていた小さな白い小屋からは
犬の鼻遣いがグスグスとかすかに聞こえていました。
店の裏はひょうたんがのれん状になっていたり、
手を加えなくても自由に育ってくれそうな元気な植物があったりと
興味をそそられるところがたくさんありました。
 
連なったたくさんのひょうたん。   苔の生えた瑞々しい植物。

帰りは店の前から1時間に1〜2本出ているバスに乗ると、
昭島駅まで行くのでとても便利でした。
そこから国立駅に寄ると駅前の桜並木が見事に咲いていて圧巻でした。
気になっていたお店や古道具屋をまわり、夕方過ぎに西荻窪駅へ。
友達が展示をやっていたので見に行く事にしました。
会場はGallery MADO。いつも魅力的な展示をやっているので
行ってみたいなと思っていた所です。

築70年の古い一軒家の一室をそのままギャラリーとして貸し出しています。
印象的なのは、名前の通り大きな窓。
渋い色の木枠に、格子状に組まれたすかしが付いています。
窓枠には幼い頃土手で編んだ記憶のあるシロツメ草の花飾りがありました。
開催していたのはシロツメ社の「キモチ、贈る」展です。
たくさんの作家さんの良い品を『贈りもの帖』として1冊にまとめて、
販売をしたりイベントをしたりしています。
その『贈りもの帖』も然る事ながら、オリジナルのもの、
友達3人が手作りで製作したものがとても可愛かったです。
シロツメ草模様の判を押したペーパーバックやレターセットや包装紙など
一つ一つ丁寧に作られていました。
素敵な品を買って帰ろうとしたら、もう明日で最終日だからと
シロツメ草をたくさん持たせてくれました。
愛媛から送ってもらったという大振りのピンと張った強いシロツメ草。
大人になってからこんなにたくさん持った事はありませんでした。
思わぬ贈り物がとても嬉しかったです。
こうやって1人の人を幸せな気持ちにさせてくれるのだから
きっと『贈りもの帖』でたくさんの人を幸せにできるのではないかなと思いました。
 
至る所に咲いていたシロツメ草。 シロツメ草ののれんをくぐって中へ。

翌朝、ゼルコバのパンを温めて食べ、早くシロツメ草を飾ろうと
意気揚々と店へ向かいました。

text by : yuki
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