動物たちの宴の夜

今宵も夕食の匂いを嗅ぎ付けて森の動物たちが動き出す。

「ごめんよ。いつも急に来ちゃって」鉄の塊にまたがりやって来たのはガソリンまみれの熊のリョウちゃん。「ペコちゃんのほっぺ食っちまおうぜ」馬にまたがりやって来たのはクリームまみれのゴリラの潤ちゃん。「ヒヒーン。ヒヒーン。お久しぶりです」背中にゴリラを乗せてやって来たのは泥まみれの馬のケンちゃん。「こんパンは」バゲットにまたがりやって来たのはパンくずまみれのヒヨコの克ちゃん。

彼らの話をまとめると、雨の競馬場から逃げて来た馬のケンちゃんは、スクラップ工場で鉄の塊を揺らしていた熊のリョウちゃんに出会い意気投合したらしい。時を同じくして、不二家で暴れていたゴリラの潤ちゃんは、おこぼれを貰おうとひょこひょこ付いて来たヒヨコの克ちゃんに出会い正気を取り戻したという。利根川の土手で合流した四匹の動物たちは八つの鼻の穴を駆使してこの家に辿り着いたそうだ。

「元気っていう名前なのに元気のない人間がいて頭にきちゃったよ。やっぱり元気には元気だしてもらいたいじゃん。元気がなけば何にもできないよ」どこかで聞いたことのあるような台詞だが、赤いバンダナを首に巻いた熊はいつも元気いっぱい。「馬鹿じゃね。ほっぺじゃねぇじゃん。人間のほっぺはもっともちもちしてんだろ。しかし非常にうまい」ゴリラはペコちゃんのほっぺで頭がいっぱい。「ぴよぴよ。ぴよぴよ」ゴリラがこぼしたパンくずをヒヨコがつついている。「ヴヴーン。ヴヴーン」ゴリラに乗られてさぞかし疲れたのだろう、回廊から馬のいびきが聞こえてくる。

今宵も話が噛み合わない。それぞれ言語が違うのか、話が交錯しているうちに夜はだんだん明けてくる。人間が眠っているうちに森に帰ろうと酔っ払った動物たちは慌てている。慌てているが帰らない。帰らないどころかもう一杯。もう一杯呑んで笑っている。

帰り道。道に迷ったリョウちゃんはどういう訳か人間が作り上げた「人より目立つな。人より劣るな」そんな下らない思想を刷り込まれている。虫歯になった潤ちゃんはクリームを食べても虫歯にならない歯を作っている。偶然にもパン工場を見つけた克ちゃんは勝手に厨房に入り込み卵の殻を頭に乗せたままパンを焼いている。喉が渇いて朦朧としていたケンちゃんはあろうことか現像液を飲んでしまい今もなお暗室に倒れている。

今宵も森のどこかで動物たちが鼻をくんくんさせている。

photo by : kino

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