三日月を抱えた男

真っ白な空間に立っている。そこには私の作品と彼の古物が並んでいる。「なんか夢みたい」お客様が入ってきて褒めてくれるが、私は目をつぶっている。「ありがとうございます」目を開いてそう言いたいが、目が開かない。決してふざけている訳ではない。開こうと思っても眩しくて開けないのだ。代わりに古物商の彼が返事をしてくれるのを待っているが、彼もどういう訳か返事をしない。相変わらず愛想がない奴だ。そう思いながら目を閉じたまま私は口を開く。「すみません...眩しくて目が開かないんです」

「いってきます」庭から楽弥の声がする。もうそんな時間か。寝室に射し込む太陽の光が眩しくて私はまだ目を開けないでいる。「いってらっしゃい」下の回廊から希舟の声がする。さっき起きたことはすべて夢だったんだ。その夢を頭に留めておくために起き抜けに妻に事細かに説明するが、ぽかんとしている。

そういうことか。アトリエで三日月を抱えた男の刺繍を見てひとり納得する。三日月を抱えた男がコーヒーを飲みに喫茶店に入るが店主に迷惑がられて入店を断られる。昨夜三日月を見ながらそんな場面を制作していたからきっとおかしな夢を見たのだろう。

私は喫茶店の店主。するとあのお客様は三日月を抱えていたことになる。それであんなにも眩しかったのか。どうりで目を開けない訳だ。古物商の彼も愛想がないのではなくただ眩しかっただけなのか。やっぱり可愛い奴だ。頭を現実から夢の世界へ移すと店主の言葉が自然と浮かんでくる。「お客様...すみませんがお月様は入れません」こうして夢と現実とが混ざり合いながら物語が紡がれていく。

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