UNDERGROUND

「U.F.O.食べる?」「大丈夫」これはいらない方の大丈夫だろう。この焼きそばの美味しさを知らないらしい。いらないなら仕方ない。ひとつだけにお湯を注いで、借りてきたビデオをデッキに入れる。陽気な管楽器の音色が六畳一間に響き渡る。きっと目を輝かせているに違いないと思って振り返ると彼女は眠っていた。もう二十年前のことだ。

その十年後、私たちは映画『アンダーグラウンド』の舞台となった旧ユーゴスラヴィアを旅していた。自由気ままにヒッチハイクをして、そこで出会った人々と過ごす日々に幸せを感じていた。トラックで国境を超えて、車内でチーズやビールをご馳走になり、勧められるがままにマールボロを吸い続けた。どこまでも感情に嘘がなく、どこまでも人間臭い。大いに笑い、大いに泣き、心から音楽を愛し、人生を謳歌している。映画で流れていた空気をそのまま肌で感じていた。映画と現実は繋がっている。そんな感覚があった。旅の最後はセルビアのグチャで過ごした。小さな村はジプシーの楽隊で埋め尽くされていた。六畳一間に響き渡った管楽器のあの時の音色を頭から離れなくなるまで聴き続けた。ノー・スモーキング・オーケストラとして村に来ていた監督のエミール・クストリッツァにも会うことができた。

そして昨夜、息子と娘と『アンダーグラウンド』を観た。流れる字幕を説明しながら。大きな時計の針を戻すシーンでは、自分の記憶の針を戻して思い返していた。人生とは不思議なものだ。一本の映画から彼女と過ごすことになり、今はその映画をふたりの子供と観ている。「これってほんとうにあったおはなし?」希舟に訊かれて言葉に詰まった。真実とも嘘ともつかない。確かなのは人間の想像力は素晴らしいということ。あとは映画のような現実もあるということ。

たまに妻はプロポーズされていないのに結婚しちゃったと笑うが、私からしたら初めて家に遊びに来たあの日、この映画を一緒に観たことが紛れもないプロポーズだったと思っている。大して話したこともない人とこの映画を観ようとは思わない。大して知らない人なのに直感めいたものがあったのだと思う。この映画に感動してくれそうな気がした。滅茶苦茶な人生を楽しんでくれそうな気がした。その直感が当たっていたかどうかは分からない。とにかく今夜はU.F.O.を食べよう。「大丈夫」そう断られたとしても。

| がくや | comments(0) |