黒けだもの



数年前から黒けだものの物語を思い浮かべていたが
その結末だけが頭に浮かんでは消えてを繰り返し
自分の中に迷いが生じていた。
けれどルーマニアで獣の肉を食べた夜に
想像と現実が重なり黒けだものの物語は完成した。
子供にも大人にも色々な人に読んでもらえたら嬉しい。

”黒けだもの”まえがきより。

ルーマニアの小さな村で暮らしていた頃
毎晩のように家に遊びに来る愛すべき友人がいた。
会った途端に蒸留酒を勧めてくる彼の名はマールトン。

この日もいつものように井戸で水を汲み薪をくべ
納屋にぶら下がる野菜でスープを作ることにした。
マールトンが鍋を覗き込んで驚いている。
「肉がない。何てことだ。神様!」
彼は頭を抱えると慌てて家を飛び出した。

しばらくすると骨付き肉の塊を手に戻って来た。
「何の肉?」そう訊くよりも先にそれは鍋に投入された。
「たぶん...豚」彼はそう答えるがたぶん豚ではない。
鶏でも牛でも羊でもない強烈な獣の匂い。
空腹だった私とマールトンは夢中になってそれを頬張る。
最高に臭いが最高に美味い。

翌朝になり原因不明の激しい頭痛に襲われた。
その日からひと月もの間布団の中から出られずにいたが
朦朧とする頭の中では黒けだものの物語が生まれていた。

| 日々のこと | comments(0) |