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早朝にジュジがパーリンカを持って家に来る。これまでは葡萄の蒸留酒を貰っていたのだが、プルーンで拵えた自慢の蒸留酒が出来上がったらしい。ピシュタの作るパーリンカは香りが良くて美味しい。ジュジの明るいお喋りですっかり目が覚めた。

その後すぐにマールトンが現れる。両手から血が流れている。昨夜家で呑んだ帰り道に自転車で転んだのだろう。顔まで傷だらけだ。遅くまで呑んで悪いと思ったのか、今日はやけに真面目な顔をしている。そして驚くことに楽弥と希舟にお小遣いをあげている。さらに内ポケットからビールと煙草を出す。朝からマールトンは元気だ。

「卵があるから来て」と言われ、そのまま一緒にマールトンの家に向かう。彼の家にはイヌ、ネコ、ウサギ、ニワトリ、アヒルがいて賑やかだ。ただ母親が亡くなり、姉のジュジと甥のイシュトヴァンがブダペストに出掛けていて、家にはマールトンひとり。彼は淋しいのだろう。どこか遠くを見つめるような表情をしている。

マールトンの家は村の一番端にあり、眺めが良くて気持ちが良い。チェーンソーで木を水平に切って、その丸太を椅子にしてゆっくりと過ごす。楽弥と希舟もウサギを捕まえたり、ニワトリを追いかけたりと楽しそうだ。

産まれたばかりの卵を貰う。マールトンはコーヒーやレモンティーでもてなしてくれ、その間のちょっとした時間に煙草を勧めてくれる。いつも煙草を貰う姿を目にしているので、別人のようだ。マッチを探す彼はポケットからおもむろに札束を出す。いつもの彼からは考えられない額を手にしている。どこから湧いたお金か分からないが、すぐに酒に消えてしまいそうで心配になる。

案の定、ついさっき別れたばかりなのに夕方にまた3リットルのビールを手に家に来た。しかももう半分呑んでいる。昨夜の酔っ払ったふらふらのマールトンを見ていた子供たちもさすがに心配している。

今夜はミッシェルのターンツハーズという踊りの家に誘われていたので、マールトンにそれを伝えると少し淋しそうな表情を浮かべて、約束の時間よりも前に帰ってしまった。ミッシェルの家で民族舞踊を楽しみながらも朝から呑み続けているマールトンのことが気になっていた。

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