Sic

カメラが壊れて落ち込んでいると、知らない男が家に入ってきた。そして自分の胸を拳で叩いて「マールトン。マールトン」と繰り返している。ここ連日酒を呑みに来ているマールトンの友達かと訊くと「マールトン。マールトン」とまた繰り返し笑っている。そうこうしているうちに友人のマールトンがやってくる。マールトンはポケットから四つヨーグルトを取り出して家族ひとりひとりに渡していく。彼のポケットにはいつも三十円相当の緑色のお札数枚しか入っていないのに頑張って買ってきてくれたのだろう。

どうやらシクにはマールトンがたくさんいて、彼らふたりも同じくマールトンらしい。パーリンカを注ぐ前から彼らはかなり酔っている。それでも出会いは一期一会だと思い酒を酌み交わす。料理をしている妻に初めて会ったマールトンが声を掛ける。「肉は入れないの?何てことだ。神様!」妻が答えるよりも先に「二分待っていてくれ」と言って部屋を飛び出した。友人のマールトンは頭を指差してくるくる回している。ふたりともふらふらだ。

一方のマールトンはビニール袋を片手に戻ってきた。手渡されたビニール袋はずしりと重く、中には骨付き肉の塊が入っていた。何の肉か訊くと「メイビーピッグ」と片言の英語で返ってくる。でも豚ではないし、鶏でもない。牛にしても獣の匂いが強い。恐る恐るスープに入れてみると臭いが美味い。

しかし夜中に家族揃って具合を悪くした。きっと偶然だろう。肉のせいではないと思いつつも「メイビーピッグ」と笑うマールトンの顔が浮かんでは消えるのだった。

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