豚のおばけ



地面には五匹の生き物がいる
一匹は天使 一匹は人間 一匹は悪魔 一匹は豚
そしてカボチャのおばけ

楽弥のリクエストで車の中ではこの曲がリピート再生されている。
どうやらこの不思議な歌詞がハロウィンを連想させるらしい。
彼の頭の中はパーティーのことでいっぱいになっている。

どこでハロウィンを察したのか十月に入るずっと前から
楽弥も希舟も子供部屋にこもり何かを夢中で制作し始めた。
やがて家の至る所にカボチャやコウモリが飾り付けられていく。
ひと月かけてようやく家がハロウィンらしくなったはいいものの
ふたりは肝心の友達を招待するということをすっかり忘れていた。

ハロウィン当日が迫るなか慌てて誰を誘おうかと考えている。
ちょうど保育園からの帰り道に友達が乗る車を見つけたらしく
「あの車を追いかけて」と楽弥に言われるがままに追いかける。
その車が止まった瞬間に息子は車を飛び降りて交渉しに走る。
そして話がついたのか、飛び跳ねるようにして戻ってきて
「とりあえずひとり決まった」と安堵しているが
私はその子の両親とほとんど会話をしたことがない。
果たしてどんなパーティーになるのか想像もつかないが
子供が築いてくれる人間関係というのもなかなか面白そうだ。

その翌日はアトリエの扉が開き、楽弥の友達とその母親の姿が。
「今日、がっくんがハロウィンパーティーに誘ってくれたんだけど
その日は予定があるの。ごめんねって断ったら落ち込んじゃって...」
とビニール袋がはち切れんばかりのお菓子を手渡された。
お詫びをしなければと思わせるほど息子は落胆したのだろうか。
彼の必死さとハロウィンにかける情熱に笑いが込み上げてくる。

翌々日、気を取り直して別の友達の母親の店へひとり交渉しに行く。
昨日、交渉失敗したことを感じさせない健気に走る息子の後ろ姿に
もうこれ以上彼を落胆させたくないと私の方まで手に汗を握る。
やがて交渉成立し約束を取り付けてきた楽弥を胴上げした。
息子は喜びのあまりやったこともないバク転を試みて
思いきり椅子の角に頭をぶつけてたんこぶを作った。
それでも昨日からの逆転劇に嬉しそうだった。

楽弥の交渉の甲斐あって、たった三日間のうちに参加者は増えて
ハロウィンパーティーを三回もやることになった。
「ちょうど五匹ずつ揃ったね」と得意気に言う楽弥に
「ほんとだ五匹ぴったりだね」と希舟も同調している。
五人の子供が五匹の生き物のどれになるかをふたりで話し始めた。
「がっくんはカボチャのおばけ。きっきぃは豚でしょ?」
「きっきぃが豚のおばけで...がっくんがカボチャだよね」

むちむちの希舟は何のためらいもなく豚を引き受けたが
ただの”豚”ではなく”豚のおばけ”になると強調している。
残る三匹の生き物は天使と人間と悪魔...。
そろそろハロウィンパーティーが始まる。

photo by : gakuya

text by : tetsuya

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