佐原の祭りが終わった。
昨夜までの喧噪が嘘だったかのように町は静まり返っている。
それは家に帰っても同じで子供部屋に敷き詰められた布団や
飲みかけになった酒のせいか日常までもが淋しく感じられる。
布団を片付けていると楽弥のカメラが出てきた。
眠る時もずっと大事に握りしめていたのだろう。
いつも写真家の友人の二眼レフを覗き込んでいるので
使っていないカメラを渡すと一晩中飽きずに撮り続けていた。
あんなに夢中になって何を撮っていたのだろうと見てみると
みんなで食卓を囲んで酒を呑んでいるところや
パジャマでくつろぐ妹の希舟、台所で料理する妻に
りんご飴と射的で落とした玩具、雨降りの庭が写っていた。
そのどれもが見慣れた風景のはずなのに美しく感じられた。
「がっくん、そろそろ眠ったら」
「まだ眠くないから眠れないよ」
妻が何度声を掛けても楽弥は眠らない。
目を擦りつつも祭りの興奮が覚めやらぬようで
宴がお開きになった明け方の四時まで眠らなかった。
そして六時に目を覚ました古道具屋の友人と共に起き上がる。
たった二時間の睡眠では体がもたなさそうだが
楽弥は朝から忙しなくシャッターを切っている。
眠るのがもったいないと思うのも分かる気がする。
私も友人と過ごしている時間は不思議と眠くならない。
楽しい時間こそ無駄にはできないと気を張っているのだろう。
どこか息子も私と似ているのかもしれない。
カメラに収められた写真を見ていると
人が大好きで祭りが大好きな楽弥にとっては
一瞬たりとも見逃せないひとときだったのだと感じる。
自分の視点でばかり息子を見ていたが
カメラを通して楽弥の視点を垣間見たことで
彼の目にしか映らない時間が流れていることを知った。
親でもかけがえのない子供の時間を制限することはできない。
ちょっと変わった友人ばかりだが
そんな大人と一緒に真夜中を笑って過ごし
眠らないことで得られるものもきっとあるだろう。
友人たちが帰った後は淋しさと眠たさで騒ぎ出すのだが
それでも自分の時間を好きなように過ごせばいいと思う。
「がっくん、そろそろ起きてよ」
妻が何度声を掛けても楽弥は起きない。
もう九時を過ぎた。
保育園はまた遅刻。
photo by : gakuya
text by : tetsuya