オノパンマン



佐原から東京へ行く時はいつも利根川沿いの道を走る。
土手の途中にオノパンという名のパン屋があるからだ。

くもりのないガラスケースの中に並べられたパンから
あれもこれもと選んで、結局ほとんどのパンを注文する。
ひとつ注文する度に「ありがとうございます」と返ってくる。
丁寧過ぎる接客はあまり得意じゃないのだけれど
この店の「ありがとうございます」は心地良い。
心から発している自然な言葉だからだろう。

田んぼに囲まれた静かな町に佇むその店は
何十年も前からずっと同じ場所にあったかのような趣がある。
そこだけが違った律動で時を刻み続けているのだろうか...
不思議と心落ち着く空気が流れている。
どのパンを食べても優しい味がするのは
きっと等身大のパンを焼いているからだろう。
一口かじってオノパンのことが好きになった。

そんなオノパン夫妻に店の旗の刺繍を頼まれた。
「好きなように作ってください」と言ってくれたので
その場でバゲットをかじる熊やカンパーニュを乗せた亀や
パン・オ・レザンを背負ったカタツムリの絵を描いて
オノパン夫妻に選んでもらったはいいものの
自分自身が納得できていなかった。
それから一年もの間、手をつけられずに月日だけが流れた。

それがある日の夜、パンを頭に乗せた人が急に思い浮かんだ。
それはぼんやりとしたものではなく、はっきりとした姿で
バゲットとカンパーニュを重ねた帽子を頭に乗せて
両手で大事そうに食パンを抱えていた。

これしかないと思い、ふたりに確認する間もなく刺し始める。
思い浮かんだ絵がぼやける前にと夢中になって刺し続ける。
降りてきたその人はオノパン夫妻にどことなく似ていて
実直なパン屋の雰囲気までも漂っていた。

”寝ても覚めてもパンのことばかりを考えているので
時々失敗もするが...誰からも愛されるオノパンマン”

オノパン夫妻と食事をする時にはよくパン屋の話になる。
自分でもパン屋を営んでいるのに他のパン屋の話をしている。
私が「パン屋に行くと買い過ぎちゃって」なんて話をすると
ふたりも「やっぱりいっぱい買っちゃいますよね」と続く。
オノパン夫妻は誰よりもパンが好きなのだ。
パンの話をしている時の表情が愛に満ち溢れている。
そんなふたりの店の旗を作れたことを嬉しく思う。
これから先のオノパンマンの成長も楽しみだ。



photo by : kentaro shibuya

text by : tetsuya

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