ある男の記録その五



結果的に私は彼を追い出した。
酒がないと会話もできない彼を否定して
嘘ばかりつくようになった彼を否定して
模倣している彼の作品までもを否定した。
それは咄嗟に出た言葉ではなく、彼が泊まっている間
言おうか言わまいか、迷いに迷って選んだ結論だった。
それを言ったら何日もかけて三人で撮ってきた映像が
形にならないまま終わってしまうことも覚悟していた。

彼はどういうつもりか、家中に散りばめられた作品や
子供たちにあげたはずの玩具までもを車に運び始めた。
私にとって彼の作品はもうどうでもよかったが
楽弥と希舟の心底がっかりした顔を見たら
黙っていられなかった。
連日ずっと酒浸しだったので、もしかしたら
あげたことすら憶えていないのかもしれない。
それでも許せなかった。

たまたま家に来てくれていた友人たちがいなかったら
思わず殴りかかっていたかもしれない。
急に遊びに来てくれることになったのだが
きっと友人はすべて分かっていたのだと思う。
誰かがいないと私が自分を抑えきれないことも
その後ひとり罪悪感に苛まれることも...。
「もう帰ってくれ」と彼を追い出しても
友人はどちらを庇うでもなく、じっと見守ってくれた。
それぞれの生き方や考え方を理解してくれ
真夜中まで話に付き合ってくれた。
心につかえていたわだかまりが解けていく。
この時間があって本当に救われた。

冷蔵庫に紙パックの珈琲が縦に置かれて残されていた。
それが異常に空しく感じた。
もう冷蔵庫から珈琲が溢れ出ることはないのだろうか。
もう彼と会うことはないのだろうか。
夜空には綺麗な満月が浮かんでいた。

text by : tetsuya

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