まっ黒の葉っぱ

「パパ...葉っぱみたいになってるよ」
寝起きの楽弥が着替えていた私の体を見て驚いている。
その前夜にも風呂上がりの私を見て
「パパ...ここから下がまっ黒じゃん」
と小さな胸に両手で線を引きながら目を丸くしていた。
確かにそれは自分の体ではないかのように黒ずんでいた。

今年に入ってからずっと具合が悪かった。
背中に発疹ができたのを発端に全身が痒くなり
掻きむしって体はどこも傷だらけになっていた。
原因は酒か煙草か睡眠不足といったところだろうか。
それにしてもこんなに長い闘いになるとは思っていなかった。

元々ゆっくり眠れない性質ですぐに目が覚める。
展示会が迫っていた時期はさらに眠れなくなり
起きたら起きたで眠ろうともせずにアトリエに向かっていた。
早朝三時の新聞配達のカブのエンジン音と共に。

展示会までは何てことないと自分に言い聞かせながら
酒を減らすでも煙草を減らすでもなく騙し騙しやっていたが
展示会が終わると同時に地獄のような日々が始まった。
腕を少し掻くと痒みが首へ背中へ足へと全身に移り
気が付くと三時間も体中を掻きむしっていたりして
そんな自分に嫌気が差して頭が狂いそうだった。

たまに刺繍に集中している時間もあるが
手を止めたその瞬間に全身に痒みが走る。
風呂に入れば体が温まり余計に痒みが増すし
布団に入れば気が緩むからか強い痒みが襲う。
それが怖くて風呂にも布団にも入れなくなり
夜は車の中で毛布に包まって過ごした。
不思議だけどパジャマに着替えると途端に痒くなるのだが
洋服のまま横になれば気を張っているのか少しは楽になる。
朝が来るまでどうにか痒さをごまかして眠ったふりをした。

毎晩呑んでいた酒はほとんど呑まなくなった。
酒が原因でこんな風になったとは限らないのだけれど
痒さで頭がいっぱいで呑みたいとさえ思わなくなった。
これまで呑み過ぎた酒を体から抜くつもりで
血だらけになるまで我を忘れて体を掻きむしった。
友人に病院や薬を勧めてもらったりもしたが
体から出る毒を薬で抑えようとする気にはなれなかった。
昔から病院も薬も嫌いで病気は自然に治ると思っているので
顔が腫れ上がり別人のようになっても掻くしかなかった。

掻きむしるうちに皮膚は傷つき黒ずんでいく。
かさぶたができた途端にまた掻いて血だらけになり
かさぶたが重なり皮膚が葉っぱのようになっていく。
それもあってかドライフラワーを気持ち悪く感じたり
複雑に編まれたアンティークレースに恐怖を感じたり
視覚までおかしくなってしまった。
これまでたいした病気をしたことがなかったので
健康であることがどれだけ大事か身を以て知った。

妻も息子も支えてくれて感謝している。
驚いたのは娘の希舟だ。
痒みと痛みで苦しい時に決まって走ってきて
「痒いの痒いの〜お空に飛んでけ〜」
と両手を大きく振って追い払ってくれるのだ。
「痒い」という言葉すら本当は聞きたくないのだが
何度も呪文のように繰り返すので段々と笑えてきて
そんな彼女の無邪気さに救われた。

これまで好き勝手にやってきた代償は大きいが
色んなことを違った角度から見ることができた。
毛布を捲り朝日が差しているのを見て幸せに感じたり
いつも食べているご飯がものすごく美味しく感じたり
これまで当たり前に流れていた日々に感謝した。

「パパ...葉っぱとれてきたよ」
楽弥はずっと私の体を気にかけてくれている。
それを聞いて希舟が走ってきた。
「ほんとだ...もう痒くないよ」
いや痒さは一向に治まらないが
私は息子を主治医、娘を看護婦と呼んでいる。

text by : tetsuya

| 日々のこと | comments(2) |
わわ、大変そうな投稿が、、
正直、病院へ行ってくださーい!といった感じですが。。
季節も落ち着いてきましたし、体もよくなってくることをお祈りしております。
かくいう我が家も、3ヶ月無理していたミッチーさんもオナカが一ヶ月も悪く、、
無理もほどほどが大事ですね
| あさこ | 2018/05/01 2:09 PM |
あさこさん、コメントありがとうございます!
ご心配をおかけしています…。でも一進一退ではあるけれど
少しずつですが快方に向かっているような気がします。
みっちーさんも体調崩しているんですね…心配ですね。
どうぞお大事にしてくださいね。
お互いに健康ありきのお仕事なので無理せずに打ち込んでほしいですね。
| Pretzel yuki | 2018/05/02 4:39 PM |