アンデルセン公園

久しぶりに涼しい風が吹き抜けるお盆の朝、
なかなか息子を連れて行けなかった遠方のお墓参りに行く道すがら
以前から気になっていたアンデルセン公園に立ち寄った。

ルーマニアから帰国した数年前、新たに住む家が見つからないまま
ひと月が過ぎようとしていた。
向こうで暮らしていた古いお屋敷の一部屋が住み心地良く、
その家と同様の住まいを心のどこかで求めていたからか
狭苦しい東京では理想とする物件に巡り会えなかった。


お互いの実家や友人の家を行き来して新居を探しまわる毎日に疲弊し始めた頃、
書店で見かけた本の片隅に「アンデルセン公園」が紹介されていた。
園内には、デンマークの可愛らしい木組みの家や風車が草原の中に建っていて、
息苦しかった日々に久しぶりに心のときめきを感じた。

その後、すぐに新居が見つかった。
都内に拘らずに関東全域で家を探し始めると、北欧建築の一軒家が目に留まった。
デンマークハウスさながらの素朴な木造の家は私たちにとって最高の新居だった。
本を見て「こんな家に住めたらいいね」という会話がすぐに実現するなんて
とても信じられなかったけれど、そこに引き寄せられる何かがあったのだろう。


アンデルセン公園に着くなり、息子は駆け出した。
小高い丘を登り、風車を抜けて、大きな橋を渡ってもなお走り続けている。
もはや歩くことを忘れたかのように駆け抜ける息子を追いかけるのに夫は必死だ。
ボートに乗るとようやく大人しくなったけれど、広大な公園に興奮している様子。
辺りを見回して、ボートから身を乗り出し四方八方を指差している。


園内にはアンデルセンの童話を思わせる切り絵が所々にあって、
長旅の一番最初に訪れたデンマークのオーデンセを思い出す。

オーデンセはアンデルセンが生まれた土地で
それもそのはず、とてもメルヘンチックな町だった。
石畳が敷かれた旧市街には、淡い色の可愛らしい家々が建ち並び、
白鳥が住む湖の上にアンデルセン博物館がある。
アンデルセンの生い立ちから作品、手紙や日記まで
彼の半生をじっくりと知ることができる素敵な博物館。
そこで最も感銘を受けたのが、趣味である切り絵だった。
今まで見たことのない驚くほど繊細な細工の切り絵には目を見張った。
童話の世界そのままの、のびのびとした切り絵の原画を見れただけで
とてつもなく大きな感動があった。


水色の屋根に桃色の扉が可愛らしい飼育小屋が見えると
向かいの柵の中で動物たちがうごめいていた。
息子は、恐る恐るヤギに近づいてちょこんと突ついては
逃げるを繰り返し、妙な照れ笑いを浮かべている。
引き馬ができたり、小動物と触れ合えるのもこの公園の魅力だろう。

地元の酪農家が作る新鮮なミルクのアイスやプリンを頬張っていると、
真っ白だった曇り空がどんよりと暗くなり、突然の大雨に見舞われた。
自然豊かな散策路や季節の花が愛でられる庭をもっとゆっくり
散歩したかったけれど、急いで車に戻ることになった。


すっかり日が傾き、日没前の弱い明かりが辺りを包む中、
祖父母が眠るお墓に花を手向け、親を真似て手を合わせ
お辞儀をする息子を見て、少しずつ成長しているのだなぁと感じる。
そんな姿を天国で見守る祖父母にようやく見せることができてよかった。
雨は一段と勢いを増してずぶ濡れになってしまったけれど
心温まるお盆休みとなった。


text by : yuki
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