オビエドのベンチ

真夜中にスペインのビーゴという町に着いた。
重たい荷物を背負いふらふらと歩いていると
暗闇のなか丘の上にそびえる城が浮かび上がっていた。
しんと静まり返った町には道路掃除夫の姿しかない。
彼に道を尋ね、城に導かれるように急な坂道を登った。

カストロ城に辿り着き、辺りを見回すと
小さな無数の光がゆらゆらと揺れている。
ようやくそれが船の灯りだと分かると、
すぐ目の前が大西洋だということに気付く。
立っている地面と海と空の境目がよく分からないほどの暗闇だ。

城に隣接している公園の貯水庫の上で寝る。
冷たい風が容赦なく吹き付けて体は震えるが、
この真夜中にどこへ行くこともできない。
朝を待つほかない。

あまりよく眠れず、日の出る前に公園で顔を洗いバス停へ向かう。
朝一番のバスでルーゴという町まで行き、
バスを乗り換えて小さなバス停で降ろされた。
下車した乗客のほとんどが巡礼の旅をしている様子で
大きなバックパックには巡礼の証の貝殻がぶら下がっていた。


バス停からヒッチハイクでセブレイロという村を目指す。
たまたま先程挨拶を交わした家族の車が止まってくれて
すんなりと目的地に着くことができた。
小さなセブレイロ村は、緑豊かな山々に囲まれた
とても見晴らしの良いところにぽつんと現れた。


目を引くのは、石壁と茅葺きで造られた民家。
とても変わった形をしている。
かつて居住していたケルト文化の名残らしい。
こんな建築を見るといつか自分の手で家を建ててみたいと思う。
どこも似たり寄ったりの便利で快適とされる現代の家よりも
こんな素朴な家の方がよっぽど豊かに暮らせそうな気がする。


ヒッチハイクでまた次の村を目指す。
なかなか車がつかまらなかったので、夕方のバスに乗って
とりあえず途中の町、オビエドまで行くことにした。
オビエドの繁華街、バルの連なる通りはとても賑わっていたが
どこも高くて入る気がしなかった。
ポルトガルと比べるとスペインの町は物価が高い。

もちろんホテルも高くて泊まる気がせず、
バスターミナルのベンチに横になった。
旅の最中に妻がつけていた日記には
「わりとよく眠れた」と書かれている。
確かにこの日寝たベンチは座面が長くて平らで寝心地が良かった。
こうも野宿を続けていると、寒さをしのげる場所と
ベンチの質を見極めるようになってくる。
そして、気ままに旅しているというだけで毎日が最高に楽しくて、
宿がなくても大して気にならなくなっていた。

text by : tetsuya
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