モンサントの夕陽

トマールから列車に揺られてカステロ・ブランコという町に着いた。
そしてタイミングよくバスが来て、モンサントという小さな村へ向かった。
バスは1日2便しかないので、もしこのバスに乗り遅れていたら
翌朝の便まで待たなければならない。
村から町へ行くのであれば、まだヒッチハイクできる可能性があるけれど、
町から村へ行くのは、夕方ともなると車がつかまる確立はほとんどない。

村へ着いたのは7時過ぎだったが、まだ太陽は穏やかに照っていた。
村は丘の上にあり、遥か向こうの地平線が遮るものなく綺麗に見渡せる。
丘の上というよりは、岩の上といった方が正しいかもしれない。
石畳の道に建ち並ぶ石造りの家々はとても個性的で、
巨石をそのまま壁に用いた家や巨石と巨石の隙間に造られた家もある。


村を歩き始めてすぐに売店のおばちゃんに声を掛けられた。
「今夜泊まるところはあるの?」
私たちは野宿するつもりだったのでそう返事をすると、
夜は寒くなるからと心配してくれて、
「私についてきて」と言って颯爽と歩き始めた。


扉が4つ並んだ変わった造りの家の前に着いた。
まるで不思議の国の入り口のようだった。
その中のひとつの扉を開けると、
気の良さそうなおばあちゃんが2人出てきた。
どことなく似ているので、姉妹なのだと思う。
優しい笑顔を向けてくれる上品なおばあちゃんたちは
全ての部屋を隅々まで案内してくれた。
年季が入っているけれど、よく手入れのされた小綺麗な部屋はどれも清潔で、
整えられた寝具やどっしりとした調度品からは良家の雰囲気が漂っている。


部屋を見せてもらって、とても泊まることができなさそうな気がしたが、
一応、宿代を尋ねてみた。おばあちゃんたちは小さな声で相談をしている。
思っていたよりも良心的な値段が聞こえたので、泊まることにした。
けれど、財布を開くと宿代には足りなかった。
「やっぱり今夜は外で寝ます」と言うと、
財布を開いた手を握り、部屋の鍵を渡してくれた。
申し訳なくて、慌ててありったけの持ち金を払うと、
「これは食事に使いなさい」と微笑んで返されてしまった。

おばあちゃんたちは別の家で生活しているようで、
この素敵な一軒家は貸し切りとなった。
村の住人になったような心持ちで、いくつもの窓を大きく開いた。


日が傾き始めた頃、宿を出て丘の上へと登って行く。
大きな丘のてっぺんにあるこの村には坂道しかない。
平坦な道がないので、歩くごとに村の表情が変わって見える。

ごつごつとした岩の先を進んで行くと妙な物音がした。
崩れかけた石の塀のなかを覗くと、そこには1匹の豚が佇んでいた。
牛のような黒い模様をもつ豚は、人懐こく近寄ってきてこっちを見ている。
人けのないところでたった1匹でいるので、
魔女の呪いで豚に姿を変えられた人間のようだった。


豚と一緒に地平線に日が沈むのをじっと眺めていた。
きっとこの豚は、自分の小屋に満足しているに違いない。
それほどに、村を真っ赤に染めながら落ちていく夕陽は美しかった。


text by : tetsuya
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