トマールの夜

冷めることのない祭りの感動を抱きつつ
町の中心に戻り食事のできるところを探すが、どこも満員。
皆祭りの余韻に酔いしれて賑やかだ。
もう閉店の時間らしく店員には断られたが、
奥でビール瓶を上げ、手招きしている人の姿が見えた。
両手を大きく広げ、必死に私たちのことを呼んでいる。
彼らは席を空けてくれ、「さ、ここに座って!」と強引に引き寄せた。
この町に住む中国人とブラジル人とその友達のインド人だった。
小さなレストランは一気に多国籍な雰囲気になった。

中国人のシュウは日本人のおばあさんをもつ。
日本語はほとんど話せないが、名古屋生まれだそう。
数年前から仕事のためこの地に移り住んでいるらしい。
そのビジネスパートナーがブラジル人のカルロスだ。
二人は仲が良く、お揃いの帽子を被っている。
ビールをご馳走になってすぐに「次の店に行こう!」と誘われた。
「本物のファドを聴かせるよ」と意気込んで私たちの手を引いた。


すぐ近くの広いテラスのあるバーで
「いいものを飲ませるよ」とカルロスは全員分の飲み物を頼んだ。
ずいぶん時間がかかって運ばれてきたのはカイピリーニャだった。
スピリッツとライムを合わせたカクテルで、度数は強いが爽やかな美味しさ。
カルロスは「俺の故郷の酒だよ」と自慢げだ。
ほどなくして同じくブラジル人の青年がギターを抱えてやってきた。
「あのファドを皆に聴かせてやってくれ」とカルロスがリクエストすると、
ギターを持つ青年の手はしなやかに動き、のびやかで若々しい歌声が響いた。
陽気な歌、哀愁のある歌、様々な歌を披露してくれた。
久しぶりに聴く人の歌声は心に響くものがあった。


空腹にカイピリーニャの酔いがまわり、ふらふらになっていると、
「ところでどこに泊まるの?」と聞かれた。
「外で」と答えると冗談だと思われ、「道で」と答えるとすごく心配された。
テントも寝袋も持たない私たちの野宿は、たしかに信じられない行為だろう。
「心配しなくていい、家に来たらいいよ」とカルロスは温かな目で言ってくれた。
それからの記憶は途切れ途切れで、もはやまっすぐに歩けない状態だった。
それでも印象に残っているのは、プール付きの大豪邸の広いリビングにある
ベッドのように大きなソファと、そっとブランケットを掛けてくれた手。

たった数時間前に知り合った人々と親密な時間を過ごせるのは
旅をしているからこそできることだと思う。
相手を間違えたら危険にさらされることもあるだろうけれど、
それよりも人との出会いを大切にしたいと思う気持ちが強い。
警戒心で素晴らしい出会いを無駄にしてしまうのはもったいないとさえ思う。
一年間旅を続けていて全く危険な目に遭わなかったのは
「奇跡に近い」と後に安宿で出会った青年に言われたが、
振り返ってみると確かにそう感じる。

text by : yuki
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