トマールの祭り

バスの時刻になり、ようやくトマールへと出発することができた。
直線距離ではさほど遠くないのに、思った以上に時間がかかって
祭りに間に合うかヒヤヒヤしっぱなしだった。
ほとんど車の往来がない道にも関わらず、対向からの大きなバスとすれ違う度に
もう祭りは終わってしまったんじゃないかと落胆し、
それでもまだ希望を持って期待し、緊張は最高潮に達していた。
この時すでに夜の8時。手のひらには変な汗がにじんでいた。
いつもならのんびりと景色を見て移動しているのに、
こんなに気忙しく焦ってバスに乗っていたのは後にも先にもこの時だけだ。

山道を抜け、急斜面を下ると渋滞のためバスが止まった。
今にも身悶えしそうに、早く進んでほしいと願っていると、
大きなフロントガラスに人だかりが映っていた。
その先にはたくさんの花のようなものがゆらゆら揺れていた。
思わずバスの扉を開けてもらって飛び出し、人だかりへと走った。


そこには白い清楚なワンピースに身を包んだ女性たちが
タキシードを着たパートナーを携えて、
頭に大きなお盆を乗せ、その上に本物の丸パンや
紙で出来た色とりどりの花を乗せ目の前を横切っていった。
これが焦がれていたタブレイロス祭りだ。


祭りは終盤のようで、最後尾の女性が進むと
大きな拍手と共に人だかりは泡の様に消えた。
私たちは行列を追ってパレードの最終地点まで見守った。
そこで彼女たちはようやく30キロもある重たいお盆を頭から下し、
パレードにずっと付き添っていたパートナーと抱き合い、微笑み合った。
小さな空き地には驚くほどたくさんの人がいて、
皆満足そうなやりきった表情をしていた。


祭りの興奮が覚めやらない私を尻目に、撤収は手早く行われていた。
あっという間にお盆はトラックに乗せられ、人々も次々に乗り込み
人で溢れかえっていた空き地は閑散とした。
トラックはクラクションを鳴らし、人々は誰にともなく手を振った。
その満たされた表情はとても清々しかった。


祭りの一端を見ることができて本当に良かった。
もともと祭り事は好きだけれど、こんなにも気持ちが昂るのには訳があった。
この祭りは4年に1度しかない、とても貴重な祭りだから。
それも、町の女性が総動員して、一同白い衣装を身につけて
頭にレースで飾られたお盆を乗せて町を練り歩くという
奇妙な内容にずっと心を惹かれていたのだ。
そのお盆の上には、私の大好きなパンと花が飾られるというのだから、
これを見逃す訳にはいかないと以前から意気込んでいた。
なんとかそれが叶えられてとても幸福感に満たされた。
きっと一日がかりの祭りを終えて、大きな安堵と心地よい疲労をたたえた
主役の女性たちと、同じような気持ちだったと思う。


text by : yuki
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