ナザレのエプロン

ナザレの明るい夕方。
日が傾き始めても人々は海と戯れている。
私もつられて勢いよく海に飛び込んだが、
思ったよりも水温が低くて固まってしまった。
よく見ると、海水浴をしている人はごくわずかで、
ほとんどの人は浜辺に寝そべり日光浴をしている。
白い砂浜に寝そべると柔らかくて温かかった。
そのまま長い間、波の音を聞いて過ごした。


高台から日暮れを見ようと、崖上のシティオ地区までの長い階段を登る。
最後の一段を登りきると、目の前にミニスカートを履いた
体格の良いおばちゃんが腰に手を当てて仁王立ちしていた。
おばちゃんは様々な種類のナッツやドライフルーツを売っている。
小さな露店の大きなパラソルの下でおばちゃんは
突然腰を振って歌いだし、片手でナッツを勧めてきた。
おばちゃんの風貌とミニスカートがミスマッチで心くすぐられた。
しかも、ミニスカートの上に付けたエプロンのは自作とのこと。
色とりどりにペイントされた花模様が可愛らしかった。


広場に出るとナッツ売りのおばちゃんがあちこちにいた。
エプロンが気になって近づき、ついついナッツを買ってしまうと、
向かいのおばちゃんからも声を掛けられてまたナッツを勧められる
というのが一通り続いた。なかなか先へ進めない。

興味を引かれたエプロン、これはナザレの伝統衣装なのだ。
かつて既婚の女性は7枚重ねのスカートを履くのがしきたりで、
さらに昔ながらの着こなしのケープやスカーフを身に付けて
サンダルを履いているおばあちゃんも多い。
なぜ7枚なのかというと、1週間の漁に出た夫の帰りを待つ妻が
無事を願って7枚のスカートを身に付けて、日ごとに脱いでいくという。
スカートが最後の1枚になった時、夫が漁から戻ることを信じて。
そのスカートの上に必ず付けるのがこの短いエプロン。


いつの間にか海岸から人々が去っていた。
無数に立てられた縞模様のテントの背後に夕陽が最後の力を振り絞っていた。
ペスカドーレス地区に戻ると、魚を焼くいい匂いが立ち込めていた。
庶民的な小さな食堂に入り、久しぶりに魚を食べた。
こんがり香ばしい炭焼きイワシとブイヤベースは涙が出るほど美味しかった。
今夜は宿もあるし、浮かれて白ワインを2本も開けて幸せな夜だった。


text by : tetsuya
| ポルトガル旅日記 | comments(0) |