西ヨーロッパ、旅の始まり

7月6日、私たちは住み慣れたルーマニアの家を引き払いスペインへ飛んだ。

ルーマニアに住み始めてからは、何処の国へ行くにも列車かバスで
寄り道をしながら数日かけて目的地へ向かっていたので、
あっという間に外国へ移動できる飛行機は、早くて便利だけれど
なんだか旅情が感じられなくて現地に着いてもあっけらかんとしてしまった。

夜更け前、大都市のマドリッドから
夜行バスでポルトガルへ向かうつもりだったが、
バス停に着いた時には、既にバスは出てしまっていた。
仕方がないので、一息つこうと老舗のバルが並ぶ通りに行ってみると、
深夜だというのに大勢の人で賑わっていた。

バルというのは喫茶店でもあり、酒場でもある、
スペイン人の生活になくてはならないもの。
朝はコーヒーを飲みに立ち寄り、夜はお酒を飲みに仲間と集まる、
町の人々が日に何度も足を運ぶ場所。
私たちも常連客に混ざって、旅の無事を願って乾杯したのだが、
やはりルーマニアから来るとスペインの物価はかなり高い。
空腹だったけれど、何かを頼む気になれなかった。

この物価だとホテルに泊まるのは難しいかなと思いながらも
「どこかに泊まる?」と妻に聞くと、
「その辺で寝ようよ」と公園を指差した。
ルーマニアに暮らす以前だったら、
きっとこんな言葉は返ってこなかっただろう。
随分とたくましくなった妻に感心してしまった。

そして、この日から西ヨーロッパ、野宿の旅が始まった。

text by : tetsuya
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