シロゴイノ村の小さな野外博物館

ルーマニアからセルビアのベオグラード近くまで
縁あってミランというトラックの運転手と共にした。
ミランがくれたセルビア全土の地図には印が付いている。
青いペンで何重にも丸が書かれたところは、彼が好きな町だ。
その印をたよりに田舎町へと向かった。

夜行列車に乗って早朝ウジツェという町に到着し、
バスの時刻を調べると週末のため夕方に1便しかないという。
仕方がないのでヒッチハイクを始める。
10分も経たないうちに、車が目の前でぴたりと止まった。
あまりにもすぐに止まったので、
本当に私たちのために止まってくれたのか辺りを見回してしまう。
しかし運転手は笑顔で手招きをしてくれた。

ジェルコとアナの夫婦はわざわざ違う道を通って
私たちの目的地へ寄ってくれるという。
しかも、途中で鍾乳洞にも立ち寄ろうと提案してくれた。
今まで出会ったセルビア人は皆サービス精神が旺盛だ。
相手が心地良いように、楽しめるように、満足できるように
取りはからってくれる。それもごく自然に。
そんなさりげない優しさにいつも心を打たれる。

鍾乳洞で涼をとった後、山道を進みシロゴイノ村に着いた。
2人は「セルビアを楽しんでね」と言って去って行った。
この村には小さな野外博物館がある。
それを目指して一本道を進んだ。
ズラティボル地方にあるスターロ・セロ野外博物館。

野外博物館は、まるで家族で経営しているかのような
家庭的なゆったりとした空気が流れていた。
40棟ほどの古民家があり、その半数が公開されているが、
いくつかの家には住んでいる人もいるようだ。
博物館内に住む気分はどんなだろう。
一間の小さな家がぽつりぽつりと建ち並んでいる。

古民家の重い木の扉を開けると、砂の敷かれた土間の真ん中に
囲炉裏があり、その端にちゃぶ台と椅子が置かれている。
壁には匙やふるい、様々な調理道具や食器が並べられていた。
一見すると、日本の古民家のようだ。
田舎のおばあちゃん家にいるような、懐かしくもあり
少し寂しくもある、静かでひんやりとした空気が流れていた。
土間の壁に掛かっていた調理道具。どれも使い込まれている。
軒下には乾燥果実の連なりがまるでネックレスのようにぶら下がっていた。

建物は民家ばかりでなく鍛冶場や陶芸場、蒸留酒を作る小屋など
昔の生活に必要不可欠な様々な作業場が見られた。
特に蒸留小屋では、プラムを干して、窯で煮て、樽へ蒸気を送り
桶に注がれるという蒸留酒を作る行程がよく分かるようになっている。
ルーマニアではツイカやパーリンカと呼ばれるプラムの蒸留酒は、
セルビアではスリヴォヴィッツァと呼ばれ、
どちらの国でもお酒呑みに愛される逸品である。
蒸留に使われる窯と樽と桶。これで美味しい蒸留酒ができる。

少し前までは一面たんぽぽの黄色い花に覆われていたであろう草原は、
今では綿毛の頭をふんわりと風になびかせて辺りを白く染めている。
その中を歩けば綿毛があっという間に茎から離れ舞い散って
肌をくすぐってはどこかへ飛んで行く。
たんぽぽの美しさに改めて気付いたのは、この春のこと。
広い草原に一面に咲くたんぽぽは夢の中の世界のようだ。
野外博物館の裏は無数のたんぽぽが自生している。

野外博物館の出入り口近くには小さな教会があって、
その裏には墓地がある。
なんとなく教会を一周していたら、変わったお墓が目に入った。
石造りの小さなお墓に、人間の姿が彫られていた。
それは聖職者のような兵士のような不思議な格好をしていて、
手には十字架を持ち、スボンのポケットには短剣のようなものが刺さっていた。
そんなお墓がいくつかあり、どれも似たような服装をしているけれど、
それぞれ微妙に表情が違っていて面白い。
ひとつは肩に鳥が乗っていた。
どんな人がここで眠っているのだろうか。

帰りのヒッチハイクは苦労した。
バスがないと聞いていたので、早々と村の外れで
行き先を書いた紙を掲げるが、車は一向に止まってくれない。
朝のヒッチハイクが奇跡だったように思えてくる。
4時間も立ち続け待ち続けた結果、町行きのバスがやってきた。
バスは来ないと自信たっぷりに言っていた人は苦笑いを浮かべている。

4時間も何かをじっと待ち続けることは、普段の生活ではあまりない。
それでも、苦にならないのはなぜだろう。
不思議と先程見た墓標のように微笑んでいられる。

こういった長閑で素敵な場所に出会う度に、
日本に帰ったら生活の拠点をどこに置こうかと考えてしまう。
大都会の東京で再び生活ができるのだろうか。
自然と共に生活する人々に魅了され続けている。

text by : yuki
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