ベオグラード行きのバール鉄道
祭りの余韻が覚めやらぬまま急いでバスに乗り込み
ポドゴリツァからセルビアのベオグラード行きの列車に滑り込んだ。
このバール鉄道はヨーロッパでも有数の景勝路線として有名らしい。
列車は視界に入りきらないほどに高い山と深い谷の間を走っている。

息を切らし、大荷物を抱えて同じコンパートメントにやってきたのは
セルビア人のミランという男。ベオグラードのテレビ局で働いているらしい。
彼はすぐに荷物からパソコンを取り出すと陽気なジプシー音楽を流し始めた。

やがて聴き覚えのある音楽が流れてきた。
映画”アンダーグラウンド”のオープニング曲だ。
これは10年程前に私が住んでいたボロアパートで
出会って間もなかった妻と初めて一緒に観た思い出の映画だ。
その時の印象的な音楽が映画の舞台となった土地で聴けるなんて嬉しい。
ミランもこの映画の監督エミール・クストリッツァの作品が好きなようだ。
車窓の景色とブラスバンドの音楽がぴたりと合っていて最高に心地良い。

ミランと映画と音楽について語り合っていると、
途中の駅でセルビア人の高校生が乗ってきた。
しばらくすると、また1人また1人と増えていく。
列車は空いてるはずなのに音楽に誘われて人が集まっきて、
6人乗りのコンパートメントに8人ぎっしりと座っている。

パソコンから流れてくる音楽に合わせて学生たちは大声で歌い、
列車の通路に飛び出して肩を組んで民族舞踊を踊り始めた。
検札をしている駅員は怒る気配もなく笑ってそれを眺めていた。

ミランは飲まずにはいられないといった様子で
食堂車に走ってビールを買ってきてくれた。
みんなで歌って踊って酒を飲んで笑う。
「これがセルビアンスタイルさ!」とミランは自慢げだ。
青春の輝きに満ちた屈託のない彼らの笑顔は素晴らしい。

昼間に乗った列車は到着時刻を3時間も過ぎていたが誰も気にしない。
それどころか次から次へとビールを空にしている。
そして歌も踊りも激しいものになっていく。

列車は真夜中にベオグラードに着いた。
景勝路線として名高い列車は絶景を見る暇もないほどに楽しませてくれた。
慌ててパソコンを片付けて再び大荷物を背負う
寂しげなミランの後ろ姿が忘れられない。

text by : tetsuya
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