ルーマニア旅日記 9日目 3/5
ホステルのベッドの上で、昨夜スーパーで買った
ストロベリーヨーグルトやチョコクロワッサンを食べる。
ホテルのビュッフェもいいけど、こういう朝食も好き。

ホステルに大きな荷物を預かってもらい、駅へと急ぐ。
9時発の列車に乗ってゲルラーという駅で降りる。
ここからさらにタクシーで20分ほどかけて
なだらかな丘を越えると見えてくる、あの村。
マラムレシュと同じくらい愛しい村、シク村。
 民家から見えた花柄のスカーフ。

シク村は、ハンガリー語しか通じない、生粋のハンガリー人村です。
鮮やかな赤い衣装を今でも身にまとい生活をする村人の姿を見たくて
去年もはるばる訪れました。
でもその時は、今よりももっと寒かったからか、弔いがあったのか、
村人は皆黒い衣装を着ていたのでした。

でも、タクシーから降り立った村の印象は去年と少し違います。
雪で覆われて真っ白だった村は、落ち着いた赤茶色の民家の屋根と
若草の絨毯とで、早くも春を感じさせるものでした。
そして、この日初めて出くわした村人はなんと!赤い衣装を身にまとっていました。
本当に鮮やかな赤、目にも目映い赤です。(しかも、偶然にも赤いバスの前で!)
嬉しくなって「素敵ですね」と声を掛ける。
着ていたコートを脱ぎたくなるほど、心が温かくなった。
 心に春が来る赤い衣装。

可愛らしい赤いおばーに遭遇した後に村を見渡すと
次々と赤い人々を遠くから見かける。
穏やかな村の色彩の中、”赤”があちらこちらを行き来しています。
その風景に興奮して、闘牛のように”赤”に突進していく。
進んだ先で出会ったのは、仲良しのおばー4人組。
やっぱりみんな”赤”の何かを身につけています。
 
おしゃべりが弾む仲良し4人組。 途中でやってきた1人の旦那さん。

その中の1人のおばーが家に招き入れてくれました。
階段を登って1歩家に入ると、そこは”赤”の世界でした。
息をのむような、素晴らしい世界。
丹念に織られたベッドカバーに、可愛らしいクッションの刺繍。
繊細な手描きの家具に、立てかけられたたくさんの絵皿、、、。
赤をベースに、ハンガリーカラー(国旗)である緑や白も加わって
調和のとれた美しい部屋にしつらえてありました。
その調度品の数々に圧倒されてただただ驚くばかりの私たちに、
おばーはアルバムを取り出して他の作品も見せてくれました。
でも、それは祖国ブダペストに送っているそう。
フォークロアを愛好している人や民芸品店に売っているらしい。
 
赤の部屋には刺繍のクロスがいっぱい。刺繍のクッションも山積み。
 
手描きの絵皿は飾り用。  赤の御殿に住む赤いおばー。 

女性は赤の衣装を身にまとっていますが、
男性はみんな紺色のジャケットやベストを着ています。
羊の毛で出来たやわらかいフェルトの紺地に金のボタンが並んでいるもの。
女性の”赤”に負けず劣らずこちらも素敵な民族衣装です。
夫婦が腕を組んで歩いている時など、
赤と紺がぴたりとくっつくとより素晴らしいコントラストを生みます。
 紺のベストを着たおじー。

村をぶらぶら散歩していると、
軒先にブーツが数十足もぶら下がっている家の前を通りかかる。
靴職人の家かな?と思い、覗いてみたけれど、お留守のようでした。
それにしても不思議な、物語の一幕のような光景でした。
 
家の軒先にブーツがずらり。  一体、何人分だろう?

散歩をしながらも、実はある人を探していました。
去年出会った、豚飼いのおじさん。
ひょんな事から、地酒のツイカをご馳走してくれたので、
ツイカおじーと呼んでいます。
その時に一緒に写真を撮ったので、それを直接渡したいのです。

道行く村人に尋ねながらツイカおじーの家を探す。
さすがは小さな村。写真を見せるだけでみんなすぐに分かり
「あっちだよ!」と指差して教えてくれます。
去年行ったのだから絶対に分かると思っていたのに、
ツイカおじーの家探しは難航していました。
そんな時、数人目に聞いたおばさんが、「ついてきなさい」
というので、半信半疑でぬかるんだ道へと入って行く。
ちゃんと話が通じているのか不安に思う私たちをよそに、
おばさんは早口でいろいろと話しかけてくれます。
そして、首に巻いた黒いスカーフをしきりにひらひらさせています。
何度も眠るジェスチャーをしていて、どうやらお葬式があるようです。
 
村を歩くとなぜか懐かしい気持ちになる。 番地の表示が凝ってる。

しばらく歩いたら、おばさんは家の門を勝手に開けて
どかどかと入っていきました。
そうだ!ここだ!見た事のある赤色のお洒落な鉄格子。
家の扉を開けて再会を喜びハグをしあうおばさんと奥さん。
事情を聞いた奥さんは、私たちにも嬉しそうにハグしてくれました。
ツイカおじーと同じく、心優しい奥さん。
案内してくれたおばさんにお礼を言うと、お葬式へと足早に向かいました。
 そうそう、この家!

私たちを家に招いてくれた奥さんは、
ソファーで寝ていたおじーを起こして手早くカバーを整えて、
ここに座りなさいと言って飲み物を出してくれました。
オレンジ味の甘〜い炭酸水でした。
寝起きのおじーは最初こそ驚いた様子でしたが、
一緒に写った写真を見て大喜びしてくれました。
それから大急ぎで退室したと思ったら、
グラスに入ったツイカを持ってきてくれました。
なぜかペットボトルに入った1本の水と共に。
ツイカは相変わらず強くてキツい!でも、思い出の味。

夫婦はさっきからいそいそと立ち回っています。
汚れた靴に靴墨を塗ったり、シャツを着たり忙しそう。
おばさんと同じくお葬式に行くそうです。
あまり長居しては悪いので、ツイカを飲んでおいとましようとすると
夫婦はとても残念そうな顔をしていました。
「次はいつ来るの?」との問いに「来年!」と答えると、
持ってきた写真の中の豚が写っている1枚を指差して、
「今度来た時はこれを食べよう!」と笑顔で言っていました。
 左上の豚を指差していました。(具体的!)

別れ際、奥さんは私たちの頬にキスをしてくれました。
おじーは靴磨き中で靴がないので、裸足で外まで見送ってくれました。
少しの間だったけれど、会えてよかった。
また来年、今撮った写真を渡しに行こう。
 心優しい夫婦。ありがとう!

村の中心にある教会を通り過ぎて、
前に買い物をさせてもらったアンティーク屋さんに行ってみる。
前を通るとちょうど店主のおじーが立っていた。
「店を見ていってよ!」と大きな扉を開けてくれました。
中に入って、写真を渡すと喜んで売り物の額に飾っていました。
納屋ような、ちゃんとした店なのか趣味で集まったのかよく分からない室内には
食器や民族衣装や細々としたいろいろなものがその辺に散らばっています。
その中で、これまで憧れの眼差しで見ていた
シク村の民族衣装のアコーディオンプリーツ袖のシャツと、
男性が着用している紺のジャケットを買えたのがとても嬉しかった。
夫はジャケットを羽織って目を輝かせていた。
民族衣装を着ると、その土地がぐっと身近に感じられる。
 
素朴でいい雰囲気の食器が並んでいる。 アンティーク屋おじーと夫。

お店の斜め向かいには、羊飼いのおじーの家があります。
去年、写真をたくさん撮らせてもらったので、
羊飼いのおじーにも写真を渡しに行ったのだけれど、不在でした。
大切な羊を残してどこに行ってしまったんだろう。
門も開けっ放しに、家の扉も開けっ放しになっていました。
少し待ってみましたが、帰ってくる様子がないので
写真を家の中に置いて再び散歩に出かけました。
おじーが帰ってきて写真に気が付いた時、どんな反応をするんだろう。
びっくり仰天するかな、腰を抜かすかもしれない、、、と考えるだけでも楽しい。
でもやっぱり直接手渡して、驚き喜ぶ様子が見たかったのに、
会えなくてとても残念でした。
 
枯れきった植物の入った琺瑯鍋。 門が開いている。
 
 扉も開いている。    羊小屋には羊を残したまま、、、。

シク村をくまなく歩き回って、最後に丘の上から村を一望する。
丘の上に建つ白亜の教会のすぐ裏手にある
見晴らしのよい高台に設けられた長椅子に座ってぼんやりするのが心地いい。
アンティーク屋おじーのところで買った丸カゴとボーを並べて、
それを挟むように座って、村を見下ろしながら2人でぼんやり。
ここからいろんな季節を見てみたいものです。
 
心落ち着く教会裏のベンチ。  いつかこの教会にも入ってみたい。
 
ボーはいつだってぼんやり。 シク村に春の気配を感じる。

教会の下のバス乗り場へと階段を降りて行く。
来ていたバスに乗り込んだら、ちょうどツイカおじーの家に案内してくれた
おばさんが先頭に乗っていました。お葬式は終わったようです。
ゲルラーのバス停に着いたら、おばさんは親切に駅まで案内してくれました。
おばさんはゲルラーに住んでいるそうで、食事に誘ってくれたけれど
今晩ルーマニアを発つので時間が心配で、残念ながらお断りしました。
親切な人ばかりに出会って、心がほぐれる。

ゲルラー駅で列車を待っている間、買ってあったビスケットを食べようと思い、
ふとツイカおじーの家でもらった水がある事を思い出しました。
ちょうどよかったと思い、水を飲もうとフタを開けて口を近づけると、
モワ〜ンと強いアルコールの香りが鼻を突きました。
、、、それは水ではなくて、ツイカでした。
どうやらおじーがお土産に持たせてくれたようです。
それにしても、ボルセック(ミネラルウォーター)の容器に
透明のツイカをなみなみと注がれていたんじゃわからない。
水と思い込んでいて、飲めなかった時のあまりの喉の乾きと、
おじーの優しさとに、思わず吹き出してむせてしまった。
どこまでも親切なおじー、素敵なお土産をどうもありがとう!
 いつまでも目に焼き付くシク村の風景。

ゲルラーからクルージに帰ったのは18時頃。
今夜23時のバスに乗ってお隣の国ハンガリーの首都ブダペストへ行く。
バスの時間まで余裕があったので、レストランを探す。
翌朝にはハンガリーに着くというのに、なぜかハンガリー料理屋に入った。
店内は可愛らしく装飾されていて、ハンガリーの香りが漂う。
ルーマニア最終日だというのに、ハンガリー人村に行って、
夜にはハンガリー料理を食べて、ハンガリーへ旅立つなんて変な感じ。
でも、ルーマニアとハンガリーの関係は切っても切れないもの。
 
窓側の席でした。カーテンが素敵。 天井は花柄のタイル。

ちょうど店内ではヴァイオリンの生演奏をやっていて
切ないメロディーが流れる中、美味しいグヤーシュやチキンソテーを食べた。
ワインも甘めですごく美味しくて、幸せな気分でした。
  
グヤーシュは本格的な味で美味しい。 ヴァイオリンの生演奏。

ホステルに帰って、少し休憩してから
ブダペスト行きのバスが出るナポカホテルの駐車場に向かう。
ナポカホテルは去年泊まったホテルで、なかなかいい雰囲気だった。
余裕をもって行ったはいいけれど、ここから他国行きのバスが出るとは思えない。
殺風景な広い駐車場には乗用車がたったの数台止まっているだけだった。
不安になってホテルのスタッフに聞いてみても「わからない」の一言。
ますます焦って、バスのチケットを発券した旅行会社が近くにあったので
確認をしに行ってみたら、パジャマを着たスタッフが出てきた。
「ちゃんとバスは出るから心配しないで」と言われたのでやっと安心した。

バスは30分前に来た。
ミニバスの後ろに荷物置きが連結されていて、思ったより小型だった。
乗客は私たちの他におばあちゃん3人組だけ。
おばあちゃんは大きな荷物を積んでいた。出稼ぎに行くのだろうか。

バスがいつ出発したか分からないくらいすぐに寝てしまった。
途中、パスポートコントロールがあり、ぼんやり薄目を開け、またすぐに閉じた。
暗闇のルーマニアを走り続け、いつの間にか国境を越えていた。
さよならルーマニア。
おはようハンガリー。


text by : yuki
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