ルーマニア旅日記 6日目 3/2 後編
ヒッチハイクをしながらいつもの幹線道路を歩く。
気温は低いけれど、やわらかい暖かな日差しが降り注ぐ。
しばらくすると、大きな車が止まり、男の人2人組が乗せてくれました。
そのすぐ後に道路を歩いている女の人を乗せました。知り合いのようです。
こうして、知り合いに気軽に声をかけて目的地まで送ってあげる。
村人たちの付き合いの濃密さやごく自然な親切心が伺えます。
車は隣村のシエウまで走りました。シエウも面白そうな村です。
そこからまたヒッチハイク。
若い男の人の車がすぐにとまってくれました。
 
屋根の大きな木造の家。  庭にはポットツリーがありました。

その車は目的地のポイエニのひとつ手前の村で止まりました。
ボティザ村という、やはり幹線道路から外れた素朴な村。
ここの木造教会も素敵で、丘の上にちょこんと建っています。
こじんまりとした教会とは裏腹に、
大きく立派な木彫りの門が行く手を遮っています。
 威厳のある木彫りの門。

門の端の小さな扉から中へ入る。
凍結してつるつるの斜面をスケートリンクさながら滑って転びながら登る。
可愛らしい小さめの木造教会と隣には鐘つき台が。
木造教会は、写真で見るとどれも同じように見えるのだけれど、
実際に見てみると、その形体は村々で全く異なります。
大きいのから小さいのまで、屋根の形や尖塔の高さ、
どれひとつとして同じものがないように思えます。
  
丘の上の木造教会。    高台にある教会からの眺め。

ボティザの木造教会は窓ガラスが入っておらず、中の様子が覗けました。
教会内部は3部屋で構成されていて、祭壇の奥の小さな部屋の
”内陣”は司祭しか立ち入れない聖なる場所です。
”中陣”は、かつて女性が入ってはいけないとされていたところです。
今は女性も入れるようですが、男性がミサに参加していた部屋。
手前の”下陣”は女性がミサを行っていた部屋。と、このように分かれています。
ちなみに2階席がある場合は少年の部屋。
それぞれミサに参加する部屋が分かれていたのは面白い。
神聖な場所なので、写真を撮ってよいものか迷ったけれど、
敷き詰められた絨毯に、うっすらと残る壁画、、、
映った内陣は青く神秘的な空間で、貴重な一枚が残せてよかった。
 
教会の一番奥の小さな空間”内陣”。 ”中陣”にはたくさんの蝋燭が。

教会の門を出ると、小さな小さなおばあちゃんに遭遇しました。
白雪姫と七人の小人に出てきそう。(もちろん妃役でなく小人役)
私が150cmちょっとなので、130cmくらいかなぁ。
こちらの人は、背はそんなに高い印象はないけれど、
みんなふくよかでまんまるな体型の人が多いです。
体型から見て取るに、経済的には分かりませんが、
豊かな暮らしをしているのだと感じます。
 
小柄な私より小さい。   可愛らしいおばあちゃん。

さて、ここからが問題です。
スムーズにボティザ村まで来れたのはいいのだけれど、
この村は車の往来がほとんどない。
村人にポイエニに行きたいのだけれど、、、と言うと、
「ここから5kmくらいよ。歩いて2〜3時間くらいかしら」とさらりと言う。
「2〜3時間歩く」と普通に言えるってすごいなぁとある意味感心してしまう。
 
木の壁や柵に模様をくり抜いてある家が多い。花柄の透かしが美しい。 

いつものように歩きながらヒッチハイクをして目的地に向かう事にした。
イザ川沿いに、可愛らしい民家や家畜を見ながらゆっくり歩き出す。
しばらく歩いても通るのは馬車だけ。
馬車もヒッチハイクしていいのだろうか、、、。
一度乗ってみたいけれど、山盛りの干し草を乗せた上に座る自身がない。
悪路になぎ倒されそうな馬車は奇跡的なバランスでうまく進んでいる。
そのバランスの邪魔をしてしまいそうで、まだヒッチハイクはできずじまい。
 
通るのはほとんどが馬車。 干し草をこれでもかというほど乗せている。

1時間も歩くと村の中心から離れた様子で、
民家が密集しているところは過ぎ、道路沿いに建ち並んでいるだけ。
村の民家は面白い事にどこの家にも小さな屋根付きの長椅子があって
よくおばあちゃんたちがおしゃべりをしていたりするのですが、
歩き疲れた時に休憩できるのがなんとも嬉しい。
ビスケット(1袋15円!)をかじりながら休憩して、また歩き出す。
 見かけると座りたくなる長椅子。

1時間も歩いてしまうと、ヒッチハイクはもう難しいなと感じ始める。
そう思うと、ハイキングという心持ちで改めて歩き出すと楽しくなってくる。
天気もよく、小高い山も現れ、羊の放牧も見られた。最高のハイキング。
 
やわらかい光が降り注ぐ広い牧柵。  遠くに木造教会が見えた。

2時間歩いたところで、舗装された道路はいつの間にか消え、泥道になった。
山の影になっているのか、日が当たらず、雪がたくさん残っていて肌寒く、
道はどろどろにぬかるんでいた。
ボティザ村はかなり広範囲のようで、一度民家が途絶えて山が見えたので
そろそろポイエニかな?と思い、ようやく会った人に聞いてみると
「まだボティザだよ」と言われる。そんな会話が何度かあって、
初めて岐路に出くわした。これまで1本道だったのです。
そこにちょうど郵便屋さんが通りかかり、道を教えてくれました。
右へ行くとポイエニとの事。これは教わらなければ分からない。
郵便屋さんは少し先へ進んでからもう一度大声で「右だよ!」と念を押した。
視界からいなくなるまで心配して見ていてくれる村人の優しさが好きだ。
 
雪の面積が多くなってきた。 クライエ(干し草の山)は田園風景の象徴。 

この辺りからさらに雪深くなり、地面の色が見えなくなった。
こんな村はずれにもペンシオーネの看板があり、少しホッとする。
もし、ポイエニに辿り着けなくてもここに戻ってくれば宿はある。
そんな事を思っていたら、また小さなおばあちゃんに遭遇した。
おばあちゃんは琺瑯のお鍋がたくさん干してある樅の木の家に住んでいて、
琺瑯好きの私は、いさんで写真を撮らせてもらった。
木の家と琺瑯の鮮やかでいて懐かしい色の取り合わせが好きなのです。
すると、おばあちゃんは家の中に招き入れてくれました。
 
水汲み中のおばあちゃんに出会う。素朴な木の家に住んでいます。
 
外壁には琺瑯のお鍋がずらり。こうして洗ったお鍋を乾かすのです。

室内は、田舎に多い空色の壁。
神が住んでいるであろう空の色に塗られるのです。
入ってすぐに竃の台所があり、その隣にはベッドが。
台所が寝室になるなんて、なかなか考えられませんが、
こちらでは竃が暖房代りになり、その側で寝るのは暖かく心地いいのです。
それにしても可愛らしい台所。いや、寝室です。
 
台所兼寝室のブカタリエと呼ばれる空色の部屋。
 
部屋には靴下がちょこんと干してあった。 室内にも琺瑯鍋が。

隣の部屋では、娘さんでしょうか。
織り機を使って絨毯を織っていました。
絨毯といっても、床に敷くだけでなく、壁飾りやクロスにも使われます。
織られていたのは、マラムレシュ独特の伝統的な模様でした。
かつては1家に1台織り機は必ずあったそうですが、今はどうなのでしょう。
でも、こうして若い女性が今も織り機を使っているのは、
異国人ながらとても嬉しい事です。ずっとずっと使い続けてほしい。
このお家で小さな赤いトライスタ(肩掛けバッグ)を譲ってもらいました。
以後それはアパ(お水)入れに大活躍しました。
 
小気味良いリズムで一糸一糸丹念に織っていました。
 おばあちゃん、さようなら!

このお家を最後に民家はぱったりなくなってしまいました。
ボティザ村はここで終わりなんだなとついに確信しました。
ちょうど3時間くらい歩いたころでしょうか。
もう歩いても歩いても雪山だけになりました。
すでに馬車も見かけませんし、人っ子一人通りません。
日もだんだんと傾いてきて、寒く、さすがに心細くなってきました。
山は緩い傾斜を登ったり下ったりして、一行に次の村は見えない。
 
薄暗い雪山は日陰の世界に入り込んで抜け出せないような気分だった。

そんな極限状態の中、一番傾斜のきつい山を登りきり、
木々で覆い隠れていてはっきりとはわかりませんが、
もしかしたら下に村があるのでは、、、という期待がよぎった時、
風で葉がざわざわ揺れているような、川のざあざあという水面の音のような
なんだか聞き慣れない音が聞こえてきました。
まさか、まさか、車のエンジン音?
2人とも呼吸を止めて耳を傾けてみますが、やっぱり勘違いのようでした。
再び歩き出して、今度は山を下ろうとした時に
今度ははっきりと車のエンジン音が聞こえたのです。
まさか、こんな雪の道を?急な斜面を?どうやってここまで?
いろんな疑問符が浮かんできたところで、小さな赤い車が見えました。
車は、歩くよりもゆっくりと坂を下ってくるところでした。
とっさに、諦めてポケットにしまっていた”ポイエニ”と書かれた
ヒッチハイク用の紙を取り出して掲げました。
車は紙を見る前に止まってくれたように思えました。
岩に片車輪が乗り上がり斜めに止まった車は、
運転手のおじちゃん1人で、後ろには荷物が積まれていました。
荷物を寄せて快く乗せてくれて、でこぼこの雪道を跳ね上がりながらも
慣れた様子で、さすがの運転術。あっという間に村に着きました。
歩いていたらさらにもう1時間くらいかかっていたような気がします。
 赤い車で日向の世界に辿りついた!

おじちゃんは村の中心で降ろしてくれて、ペンシオーネの場所まで教えてくれた。
でも、そのペンシオーネは暖房が壊れているとかで泊まれず、
もう1軒のペンシオーネへ向かった。
辺鄙なところにある小さな村なのに、ペンシオーネはいくつかあるようです。
少し歩いて、「この辺にペンシオーネはありますか?」と聞いたら
「ここよ!」と言われた。さらに優しい笑顔で「いらっしゃい!」と。

ここはマリアというママがやっているペンシオーネで、
パパのバスィレは半農半牧を営み、娘のイリアナは小学生。
高校生の息子さんもいるそうで、彼は都市で生活をしているそう。
おばあちゃんはお隣の離れに住んでいます。
このイリエシュ家に1泊させてもらう事にしました。

家に上がってすぐに家族が集まってきて、挨拶をしたり、握手をしたり
満面の笑みで手厚く歓迎してくれる。
さっきまで雪山の中を心細く歩いていた私たちは涙腺が緩みそうになる。
すぐに「お腹空いてない?」と聞いてくれて、
ツイカで乾杯をした後に、あっという間に夕食の支度をしてくれた。
 何はともあれツイカで乾杯!

熱々のスープが喉を通ると、「あぁ生きてるなぁ」と感じる。
大げさだけれど、さっき1台の車が通らなかったらこの食事には
まだありつけていなかったし、本当にどうなっていたか分からない。
酸味のきいたチョルバの後はまたここでもサルマーレがでてきた。
ブシュタ家とはまた違った味で、とっても美味しい。
かなり空腹だったので、信じられないくらいたくさん食べた。
 各家庭で味が異なるサルマーレ。

食後は、2階に案内されました。
一旦外に出て、違う階段から2階に上がります。
外は真っ暗で、真の闇。星がびっしりと夜空に張り付いているように見える。
星の大小がはっきり見分けられて、こんなにたくさんの星を見たのは初めて。

2階には広々としたこぎれいな寝室があり、その部屋を宛がわれました。
イリエシュ家はとても綺麗に手入れをされていて、新築のように見えます。
部屋はもちろん、台所も、お風呂場もピカピカ。
働き者のママの性格が出ています。
 部屋には暖炉があってぬくぬく温か。

お風呂は水風呂になる事もなく、快適に入浴できて、すぐに寝てしまった。
まだ9時頃だったように思います。
たっぶり歩いて、たらふく食べて、ぐっすり寝る。
普段の生活ではなかなか満たせないような部分が満たされる。
そう、ここでの暮らしは”満たされる”という言葉が一番しっくりくる。

text by : yuki
| 買い付け旅日記 | comments(0) |