2012.08.19 Sunday
テルチの砂糖菓子の家
テルチという3つの池に囲まれた小さな町に立ち寄った。
陽が沈みかけた薄暗い時間に駅へ着くと、
どんよりとした雲が空を覆い尽くしていた。
旧市街へ向かって歩いていると、雨がぱらぱらと降ってきた。
雨の日の野宿は寒くて辛過ぎるので、この日ばかりは宿を取ることにした。
しかし、どこの宿も空き部屋がなく、重い荷物を引きずって探しまわった。
町の端にある高そうな宿で、思い切って安宿を尋ねると、
親切な宿のお姉さんが「内緒で安くしてあげる」と言って、
随分とまけてくれたので即決した。
しかも、通された部屋は驚くことにロフト付きの4人部屋。
いつも宿のない自分たちに分けてあげたいと思うほど贅沢な部屋だった。
荷物を置いて、夜雨のなかレストランを探しに旧市街へと向かう。
ちょうど何か演劇のようなものが終わったところらしく、
旧市街の中心に聳える城からは民族衣装を着た子供たちが続々と出てきた。
お祭りの最中なのか、広場にはいくつもの露店が並んでいる。
賑わっている露店で焼きたてのローストチキンをまっぷたつに切ってもらい、
長椅子で相席をして地元の人に混じってチキンを頬張りビールを飲んだ。
見知らぬ人からもビールをご馳走になり、祭りの騒めきに酔いしれた。
チェコのビールは美味しいのでいくらでも飲めてしまう。
薄闇のなか、左右に建ち並ぶ家々をぼんやり眺めていると、
子供の頃に何気なく描いていた空想の家に
どことなく似ているような気がした。
平面的で現実味のない家々だが、ノスタルジックで愛らしい。
マシュマロのように柔らかいベッドで眠った翌朝も
雲は重たかったが、足取りは軽かった。
久しぶりの宿の朝食に浮かれ、
胃袋が破けるかと思うほどにたらふく食べた。
恒例のサンドウィッチもこっそり作ってバッグに忍ばせた。
外に出ると雨も上がり、陽が射してきた。
旧市街に出ると昨夜は暗くてよく見えなかった家々が
やわらかく淡い綺麗な色を付けていた。
妻は顔をほころばせ「砂糖菓子みたい!」と叫ぶと
呆れるほどにじっくりと1軒1軒見てまわった。
近くで見ても、色付けされた砂糖で絵を描いたクッキーのようだ。
約500年前に町が全焼した際、家を建て替える市民に
ルネッサンス様式で建てるよう領主が命令したことがきっかけで
このような町並みができたのだという。
市民がそれぞれ趣向を凝らした家々が整然と並ぶ旧市街は
あまりにも美しくおとぎの世界に取り残されたようだった。
夢と現実の狭間のような景色がまだまだこの世にはたくさんあるのだろう。
これからもそんな景色を見続けていきたい。
text by : tetsuya
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