2012.07.18 Wednesday
キスキスパース!
いよいよパリを発つことにした。
日にちの感覚がないまま2〜3日滞在したつもりでいたけれど、
数えてみたら1週間以上もパリに居たことに気付き、驚いた。
ちえちゃんの家はあまりにも居心地が良かった。
朝食時に、突然夫がバゲットをナイフで削り始めた。
一心不乱にパン屑を散らして出来上がったのは
パリジャンじゃなくて”パンジャン”。
何かが乗り移ったようにパンジャンは生まれた。
そして、ちえちゃんの家の新しい住人となった。
ちえちゃんが電話でプラハ行きのチケットを取ってくれた。
夕方の便だったので、近所の公園やマルシェを散歩して
最後のパリをしみじみと味わった。
長く居候したちえちゃんの家を出発する時、
その後の旅が順調にいくようにとお守りをくれた。
シュトラスブールの大聖堂がかたどられたお手製のブローチ。
朝からいそいそと縫い物をしていると思ったらこれを作っていたのだ。
ちえちゃんは照れて、猫のシーレからの贈り物だと言った。
知らん顔のシーレのしっぽから受け取ってそれぞれの帽子に付けた。
別れ際、ちえちゃんは目に涙を浮かべていた。
「またね」と言って抱き合って、いつまでも手を振り合った。
ちえちゃんがいなければ、こんなに長くパリにはいなかっただろう。
田舎の旅ばかりの私たちに都会のささやかな楽しさを教えてくれた。
久しぶりに重い荷物を抱えてバスターミナルに着くと、長蛇の列ができていた。
ようやく私たちの番になると、チケットを見た係員は顔をしかめて
「このバスはもう出たわ」とそっけなく言った。
意味が分からず何度も確認すると、
17時発だと思っていたバスは16時にすでに出発していた。
顔面蒼白になり、電話でちゃんと確認したのだからと
なかなか取り合ってくれない係員に食いついて、
払い戻しができないところを何とか明日の便に変えてもらった。
長い格闘の末、疲労困憊したがチケットが無駄にならずに済んでよかった。
疲れてとぼとぼとちえちゃんの元に戻る。
お店番を終えたちえちゃんは、いなくなったはずの私たちを見て
「まぼろし!?」と叫んだ。
チケットのことを説明すると、突然顔を真っ赤にして走って木陰に隠れた。
たまたま居合わせたフランス人の友人アンジェラは目を丸くして
「キスキスパース?キスキスパース?」と不思議そうに言っていた。
そう、人形劇場で聞いた「キスキスパース」(何があったの?)だ。
てっきりチケットオフィスのオペレーターが
出発時間を言い違えたのかと思っていたら、
どうやらちえちゃんが聞き違えたらしい。
木陰からそろそろと出てきて、
「16と17をよく間違えてしまうの……ごめんね!」と言った。
こういう時、予定のない旅で本当によかったと思う。
また3人で夕食を食べられることがとてつもなく嬉しかった。
text by : yuki
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