オーデンセという街を訪れたのには理由があった。
コペンハーゲンから西へ列車に揺られ1時間半。
眩しい日差しの中から浮かび上がってきたのは
童話の中に出てきそうな色とりどりの小さな家々。
それもそのはずここはあのアンデルセンの生まれた街。
アンデルセンと聞いて誰もが最初に頭に思い浮かべるのは童話だと思うが
童話以外にもアンデルセンは詩、紀行文、小説、戯曲、随筆、伝記、書簡
など幾多の作品を残している。
しかし私の訪れた理由というのは
そのどれでもなくアンデルセンの切り絵細工が見たかったのだ。
京都の本屋でアンデルセンの切り絵の本を偶然見つけたのはちょうど1年前。
アンデルセンと切り絵というとすぐには結びつかないが
本を開くとそこには童話同様、夢の世界が広がっていた。
いつかその切り絵の本物を見てみたいと思っていたところ
偶然にも飛行機がコペンハーゲン経由に決まり、
空港に着くなり真っ先にこの街へ来た。
そして博物館に保管されている切り絵を見てその素晴らしさに驚いた。
小さなものから大きなものまで色々あったが
それらは世に出すための作品ではなく自分自身の本に貼ってあったり
栞として作られたものだったりとおそらく遊びで作られたものだったのだ。
それだけに失敗して切り落としてしまった箇所が所々見られる。
紙だけではなく布切れや木材の切り抜きまであった。
”自由気ままな作品ほど人の心を強く惹き付ける”のかなと考えながら
見ていたが、切り絵細工に立ち止まる人はほとんどいなく、
人が大勢集まるのはやはり有名な童話作品群の前であった。
しかし気に入った作品の本物を見られるほど嬉しい事は無い。
誰も立ち止まらない切り絵の前でふとアンデルセンの有名な言葉を思い出した。
”旅こそは我が人生”
旅の始まりにぴったりだと思った。
text by : tetsuya