2011.06.01 Wednesday
リヴィウの野外博物館
野外博物館というと、たいていは郊外の広大な敷地に
設けられていることが多いけれど、リヴィウは町中にある。
旧市街から少し外れた住宅街を縫う急な坂道を上りきると森が見えてくる。
そこが野外博物館のあるシェフチェンコの森。
入口を抜けるとすぐに古民家や教会が現れる。
ここはピロホヴォ村ほど広くない。それがかえって嬉しい。
見るものがたくさん控えていると思うとどうも落ち着かないもので、
急がなくてはとそわそわしてしまうので
これくらいの規模の方が性に合っているのだと思う。
教会は館内にありながら、地元の人々が利用している。
古民家は手入れがされていない家が多く、
傾いたままだったり壊れたままだったりするけれど、
熱心に修復している人々の姿が見受けられる。
薄いへぎ板を数人がかりで釘打ちして、屋根を葺き替えている家もあった。
その様子が何だか自宅を修理しているような感じで、
お茶を飲み、お菓子を食べながらのんびりと作業に当たっていた。
皆、家々に愛着を持っているのだろう。
室内を飾り付ける姿や、畑を耕す姿に愛情が感じられる。
ここは博物館ではなくて、本当の集落のように見えてくる。
掃除の合間に古民家の庭でのんびり日向ぼっこをするおばあさん。
ふと思ったのは、コンクリートで固められた家で暮らすのと、
木造の家で暮らすのとでは、気の持ちようが違うような気がする。
昔に比べて人々のつながりが希薄になっていることは、
家の環境が大きく影響しているのではないかと思う。
ルーマニアの地方を歩いていて、
「寄っていきなさい」「飲んでいきなさい」「食べていきなさい」と
家へ親切に招き入れてくれるのは古い民家の住人が多い。
そんな家々は、門も開けっ放しで、扉の鍵も閉めず、窓が開け放たれている。
家の密閉度と心の密閉度は何か関係があるのかもしれない。
段々に切り揃えられた藁葺き屋根。
立体的な彫刻が美しい回廊の柱。
中に入れる古民家は限られているけれど、
そこに飾られている生活道具は一見の価値がある。
わりと質素な部屋の中で、白地の皿に描かれた鮮やかな花模様の絵皿と
白地の布に施された多色の幾何学模様の飾り布が目を引く。
なかでも民族衣装が飾られている部屋が面白かった。
ウクライナは、刺繍を施したものが思ったよりも少なく、
織りで細かな模様を表現しているものが多かった。
単調ながら細やかで美しい幾何学模様は、ブラウスの袖に、エプロンの裾に、
枕カバーやカーテンの端にと、人の目につきやすい部分を特に美しく飾っている。
壁に花模様が描かれた部屋。これだけで室内がひときわ明るく見える。
一通り見終えて出入口まで戻って来た時、
行きに気付かなかった階段が目に入った。
そこを上ってみると朽ちかけた木造教会が
落ち葉の敷き詰められた高台にひっそりと建っていた。
窓硝子が赤かったので珍しいなと思い入口にまわりこんで驚いた。
教会内部が真っ赤に染まっていたのだ。
誰もいない静かな教会に、赤い窓を通り抜けた自然光が
奇妙な空間をつくり上げていた。
それは、中に入るのがためらわれるような異空間だった。
小さな窓から目一杯の光が降り注ぎ、教会内を赤く染め上げていた。
博物館を後にして向かったのは、通いつめた老舗のパブ。
ここで飽きもせずに毎日ボルシチをすすっていた。
ボルシチというとロシア料理と思われがちだけれど、
実はウクライナ発祥の伝統料理。
たっぷりとビーツを使ったボルシチは鮮やかな赤色をしている。
ふと、野外博物館で見た教会の色が頭をよぎる。
そして、ウクライナといえば濃い赤色の印象が残った。
そういえば、旅の最初に見たアコーディオン弾きも赤いコートを着ていた。
どこかでこの鮮やかでいて深い赤色、そうボルシチ色を見たら、
きっとウクライナの風景を思い出すことだろう。
text by : yuki
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