モルドヴァからの寝台列車

夜、モルドヴァのウンゲニ駅を後にして、ウクライナのキエフ駅へ向かった。
列車は簡易寝台になっていて、毛布を貸してもらえる。
いつも長距離だろうが、安い切符でコンパートメントの座席に横たわっているので
今夜はゆっくり寝られると思い喜んだのだが、そうもいかなかった。

陽気な駅員が日本人を珍しがって、私の隣に腰掛け、話しかけてきた。
「どこから来たんだ?日本は良いか?モルドヴァは気に入ったか?
ウクライナのどこへ行くんだ?何でルーマニアで暮らしているんだ?」
次から次へと質問が飛んできて、止まることを知らない。

駅員は席を立つと、大きなペットボトルとグラスを持ってきて
「自家製ワインを飲んでみないか?」
と言ってグラスに注ぎながら続けた。
「これからの旅がうまくいきますように」
そして自分で一気に飲んでから、グラスを手渡された。
自家製ワインはロゼのような色をしていて酸味が強いが飲みやすい。
以前ルーマニアでジプシーにご馳走になったワインの味によく似ている。
結局ウクライナの国境まで飲み続けることになった。

ウクライナ入国の際には入国書が必要なのだが、
どうやら英語ではなく、ロシア語で書かないといけないらしい。
そこで駅員が私たちに代わって入国書を書いてくれるというのだが、
酔っ払っているのか「間違えた」「また間違えた」と言って
何度も用紙を破り捨てては書き直している。

未明にウクライナの入国手続きが済むと、私は気を失った様に眠ってしまった。
昼間、車内に差し込む日差しで目を覚ますと毛布が2枚掛けられていて、
テーブルの上にはクルミがいくつか置かれていた。
後で駅員が通りすがりに声をかけてきた。
「寒くなかったか?腹は減ってないか?」
まだ寝ぼけていた私は駅員の田舎で穫れたというクルミを食べながら、
ぼんやりと車窓を眺めていた。

キエフ駅に着いて駅員と握手を交わして別れると
駅舎には寂しげなアコーディオンの音色が響いていた。

text by : tetsuya
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