2011.02.20 Sunday
雑踏の町イスタンブール
出発してから丸一日以上も乗っていた列車から降り立ったイスタンブール。
予定よりも大幅に遅れた列車の小さな寝台室にこもっていたので、
一刻も早くその大地を踏みたくてむずむずしていた。
列車が徐行してようやく到着した時は嬉しかった。
駅を出るとすぐに焼き栗やとうもろこしの屋台、靴磨き屋が待ち構えていた。
その出で立ち、表情は欧州にはない雰囲気が漂っていて、
さらに町の雑多な様子は近東に来たのだと実感させられる。
駅からすぐのところには食堂街があり、
小さな路地にたくさんの飲食店が軒を連ねている。
ちょうどお昼時でどの店も満席。すごい活気に満ちあふれている。
ようやく席を確保し、先客が食べているものと同じ物を注文した。
世界三大料理と言われているトルコ料理だが、家庭的な食堂で充分に満足できる。
料理も然る事ながらパンがものすごく美味しい。
パンというとヨーロッパが本場というような意識がどこかにあったけれど、
トルコのエキメッキと呼ばれるバゲットは世界一美味しいと言われている。
皮はパリっと香ばしくて中はフワフワ、モチモチのパンは
世界一と言われるのも頷ける。
しかも、このパンは政府によって作り方も値段も決められているらしい。
こちらはスィミットと呼ばれるゴマ付きリングパン。
イスタンブールで面白いのは何といってもバザールだ。
一口に屋内市場と呼ぶにはあまりにも広いイスタンブールの名所。
広過ぎて自分がどこにいるのかさっぱり分からなくなるグランドバザールよりも
周りが問屋街に囲まれたエジプシャンバザールの方が庶民的で良かった。
バザールには何でも売っている。
伝統的なお菓子から数十種類もあるスパイスやドライフルーツにナッツ。
食品だけではなくて、チャイ(紅茶)を飲むための小さなチャイグラスや
ジェズヴェと呼ばれるトルココーヒーを淹れる専用の小鍋など、
いかにもトルコらしい不思議なものがたくさん売っている。
チャイを飲みながら店番をする乾物屋のおじさん。
チャイを飲みながらおしゃべりに興じるカゴ屋のおじちゃんたち。
エジプシャンバザール付近を巡っているうちに
問屋街の2階にある小さなモスクに行き着いた。
そこは、地上階の喧噪とは無縁のように信徒だけの静かな時間が流れていた。
リュステム・パシャ・ジャーミィという名のこのモスクは
近くにある大きなモスクのように威厳のあるものではなくて、
町中に自然に溶け込んでいる。
たいていのモスクの外装は立派な石造りで、内装は豪華で荘厳という
印象だったけれど、このモスクはひと味違った。
外壁にトルコ独特のイズニックタイルが使用されていて、
異なった様々な模様のタイルが継ぎ接ぎになっていた。
艶やかなタイルの鮮やかな青色がこのモスクを一層美しく際立たせている。
屋外で祈る姿も他のモスクではあまり見られない。
イズニックタイルが継ぎ接ぎになっているところに魅力を感じる。
その美しい壁面に目を奪われてじっと佇んでいる間に
何人もの信徒が入れ替わり立ち代わりやってくる。
イスラム信徒は1日に5回祈りを捧げるという。
その時間帯は決まっていて、定時になるとモスクの尖塔に取り付けられた
スピーカーからアザーンと呼ばれる礼拝への呼びかけが大音量で流れる。
トルコを旅していると必ずこのアザーンを耳にすることになる。
歌のような朗読のような独特なアラビア語がどこからともなく聞こえてくる。
時には、早朝にアザーンの音で目覚めることもある。
祈りは家でも職場でも出来るが、1日1回はモスクに来るのが望ましいらしい。
信徒はモスクの前に設置されている水場で手足や顔を洗っている。
礼拝の前には外気に触れている部分を清めなければならないという。
そして、靴を脱いで軒下に敷かれたゴザにひざまずき
タイルで埋め尽くされた外壁に向かって何度も頭を床につけたり立ったり
手を耳に当てたりという祈りの一連の所作を繰り返していた。
やがて、モスクの中へと入り、再び祈りを繰り返す。
皆同じ方向を向いて同じように祈りを捧げている。
祈る方向は、メッカ(サウジアラビア)の方角。
敬虔なイスラム教の祈りを目の当たりにした。
イスタンブールの賑やかな町中を外れて寂れた商店に入った時、
ふと『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』という映画を思い出した。
舞台はパリの裏通りだけれど、移民のトルコ商人のおじさんが登場する。
近所に住む天涯孤独なユダヤ人の少年に人生の素晴らしさを説き、
深い愛情を注ぐイブラヒムおじさんの話。
おじさんの営む小さな商店には様々な食材や日用品があり、
生活苦の少年にコーヒーにチコリを混ぜる方法や紅茶を再利用する方法、
パンをあぶって食べる方法などを教えるシーンがあり、印象的だった。
その店は街角の所狭しと商品が積み上げられた商店に似ている。
のんびり構える店主もどこかイブラヒムおじさんのようだ。
こちらはモスクの入り口にいたおじさん。
トルコの旅では各地で出会ったおじさんが印象に残っている。
一見取っ付きにくそうに見えるのだけれど、
すぐに見せる優しい笑顔はこちらを安心させる。
そしてすぐにチャイを薦めてくれる。
おじちゃんたちは小さなチャイグラスに角砂糖を2つも入れる
甘くて濃いチャイが大好き。
暇さえあればチャイを飲んでいて、1日10杯以上は珍しくない。
ことあるごとに「チャイでも飲んで行きなさい」と引き止められた。
何を話し込む訳でもない、ただチャイを一緒に飲むだけ。
そのぼんやりとした時間はトルコの印象的な思い出となっている。
今回は、他にも訪れたい場所があったのに時期が悪く足を伸ばせなかった。
今度トルコに行く時には、また各地で素敵なおじさんに出会いたい。
そして甘くて濃いチャイを一緒に飲みたい。
text by : yuki
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