ハンガリー旅日記 13日目 3/7
ホテルでハチミツたっぷりのトーストを食べて
ゆっくり身支度をして出かける。
最終日の今日は肌寒い曇り空。

いつ行っても楽しい、中央市場へ向かう。
ブダペストの台所であり、大きなお土産屋さんでもあります。
1階の食品売り場には美味しそうなデザートが並びます。
ケーキはどれも大きく、彩り豊か。クッキーは小さく、可愛い形。
シュークリームとアップルパイ、クッキーやチョコを買う。
 
どれも大きいけれど、案外食べれちゃう。 クッキーは量り売り。
 パンをじっくり選ぶおばあちゃん。

デザートを頬張りながら大きな屋内市場を1周する。
1階には肉屋と八百屋が多い。いろんな匂いが混ざり合っています。
見慣れない食品を見て回るのはとても楽しい。
 
パプリカがぶら下がる調味料屋。サラミがぶら下がる肉屋。

2階にはハンガリーの名産品が周りを取り囲むように並んでいます。
そのほとんどが民芸品で、いつも見つけたら買うフェルトのポーチを
色違いでいくつか買う。ここでは値切れるので、少しお得になる事も。
 伝統的な刺繍のクッションカバー。

薄暗い印象の地下は、いつもあまり立ち寄らない。
今日はなんとなく気になって地下へ降りてみました。
やっぱり照明が足りないと思えてしまう、ひと気のないこの階には、
あまり需要が無いと思われる食品たちがひっそりと並んでいます。
魚類(陸地のハンガリーではそんなにポピュラーじゃない様子)や、
各家庭でもよく作られる保存食、乳製品のお店が多い。
様々な材料で作られる色とりどりのピクルスは、
水に浮かぶビーチボールみたい。
 
瓶詰めのピクルスが整列する姿は可愛い。同じような保存食の店が何件もある。
 主にチーズを売っている乳製品屋。

市場で買ったお菓子を持って、動物園に行く。
一昨日行ったサーカスの隣にあります。
最寄り駅を降りると、ポツポツと雨が降ってきました。
2頭のゾウで囲まれた動物園の入り口をくぐると、園内はがらんとしていました。
平日の雨降りの動物園は、混みようがない。でもゆったり見て回れるのが嬉しい。
 
上部はしろくま、下部はゾウで出来た動物園の入り口。

世界で最も古い動物園のひとつとされているだけあって、
そこかしこに歴史を感じます。
厩舎に工夫が凝らしてあるのも見所のひとつ。
ルーマニアで見た木造家屋や木造教会のような建物に、
イスラム建築のような異国情緒を感じる建物まであります。
 
トランシルバニア風の建物。 木造教会風の尖塔のある建物。

最初に目に付いたのは、ロバとリャマの檻。
ほかにもカモシカなんかもいて、みんな1つの檻に入っているのがすごい。
ロバは大人しく、撫でても嫌がらずに身をまかせている。
それを見たリャマは、ロバをぐいぐい押して自分も撫でて!と言わんばかりに
近づいてきた。ロバはちょっと困惑気味でした、、、。
このリャマ、下の歯が出ていて憎たらしいような、憎めないような顔をしている。
 
舌を出すかわいいロバと、歯を出すファニーフェイスのリャマ。
 
リャマは、すました顔でロバを追いやるなかなかの強者!

牧場に近づいていく時のような動物独特の匂いが漂う馬や羊や豚の小屋。
子豚がちょろちょろと走り回っているのが可愛くて見ていたら、
奥にこれまで見た事もないような大きな親豚がいた。びっくり!
この品種は、毛が縮れているのが特徴で、ハンガリー固有種の豚だそうです。
 
2つの小屋を行ったり来たり走りまわる子豚と、微動だにしない親豚。

鳥舎はジャングルのようになっていました。
オオハシやコウモリが目の前で羽ばたきます。
その向かいには大きなふたこぶラクダもいました。
1頭はこぶのひとつがぺしゃんこになっていて、哀愁をさそいます。
 
こぶ健在の元気ならくだ。 2頭揃って正座。おしりが可愛い。

動物園の奥には古い石造りの建物が残っていました。
昔の動物園の名残でしょうか。
梯子を上ると鉄格子がはめ込まれた狭いスペースがありました。
そこで檻からカメラに向けて珍獣ごっこをして遊んでいたら、
地元の人に大笑いされてしまった。(その後彼らも梯子を登っていました。)
 
こんな古い塔が残っています。 檻の中に入ることができます。
 
狭い入り口から降りてくる姿はちょっぴり情けないかも。

しろくまのボーと本物のしろくまを対面させた後、
オオカミのいるガラス張りの小屋に近づくと、
1匹のオオカミがボー目がけて駆け寄ってきました。
さすがオオカミ!大きくて迫力があります。
ボーの目や鼻を見て動物と認識したのか、過敏に反応して
ガラスを隔てたボーに必死に噛み付こうとしています。
そのうちにもう1匹やってきて、永遠に噛むことのできないボーの
奪い合いになっていました。この光景には本当にびっくりしました。
 
ボーの顔が強張っています。 まさかの2匹でボーの取り合い!

じっくり時間をかけて回った動物園。
雨が降ったり止んだりのあいにくの天気でしたが、とても楽しめました。

再び中央市場の方へ戻り、古書通りで本を探す。
以前は面白い本がたくさん見つかったけれど、最近は好みの本が少ない。
可愛い絵本などは買い手がたくさんいるので、すぐになくなってしまう。
古書店で熱心に本を探すと、ぐったり疲れてしまうので、
気が向いたお店に寄って少しだけ絵本を買いました。

そしてまた中央市場へ。この辺は何度行き来しても楽しい。
遅いランチを食べようと、市場2階の食堂へ。
2階にはお土産屋の端に簡単な食堂が数軒あります。
安くて美味しいと評判なので、どうしても気になってまた来てしまいました。
大きなソーセージにたっぷりマスタードをつけて軽食をとる。
周りは常連客という感じのおじさんばかりで、和やかな雰囲気。
 
中央市場はいつ見ても素晴らしい建物だと思う。

中央市場から伸びているバーツィー通りの民芸品店を覗く。
いつも寄るお店は大幅な値引きセールをやっていました。
もしかして閉店?と思われるような価格が全ての商品についていました。
昨日のお土産屋さんのように、今度来たらお店がまるっきり変わっていたら
ちょっと淋しいなと思いつつ、民族舞踏で履く子供用の靴を買いました。

日が傾き、店仕舞をするシャッター音を聞きながらぶらぶら散歩。
辺りにお店がなくなったところで、可愛らしいレストランを見つけました。
アルフルディという名前の民族調の小さなレストラン。
店内には絵皿が飾られ、テーブルにはハンガリーらしい色合いの
白と赤の刺繍のクロスがかかっています。
 
ハンガリーの家庭料理店。 あたたかみのある店内は落ち着く。

既にテーブルの上にはオレンジ色のパンのようなものが山盛り乗っていました。
自由に食べていいようなので、料理を待っている間に早速味見。
こんがり焼き色のついたパプリカ味の大きなスコーンでした。
バターがきいていてとてもやさしい味がします。
注文したのは、いつものグヤーシュにパプリカチキンというもの。
どれもパプリカになってしまった。でも、これぞハンガリーの家庭料理。
パプリカは、日本でいう醤油のようなものかな。
どんな料理にもだいたい入っている、たぶん使用頻度の一番多い調味料です。
ハンガリーに来ると、毎日食べても本当に飽きがこない。美味しいスパイス。
グヤーシュもチキンも素朴な味で、絶品でした!
 
パプリカ味のスコーン、ポガーチャと、パプリカで柔らかく煮込んだチキン。
(このお店はお皿まで可愛かった!山吹色の花柄のお皿。)

帰りにスーパーに寄ってお土産を買う。
イースターが近いので、うさぎや卵のイラストが描かれたお菓子が
たくさん売っていて、ちょっとしたお土産にうってつけ。
ここでパプリカ味(また!)のチップスを買って、ホテルで最後の晩酌。
おじーにもらったツイカはキツくてなかなか減らないけれど、
この香りを嗅ぐだけで、旅のすべての事が思い出される。

交代で仮眠をとりながら徹夜で買い付けたものの梱包をする。
既にトランクに詰めたものを1度取り出して、
テトリスみたいに頭を使ってぎっしりきっちり詰めていく。
これ何を買ったんだっけ?と思い、少し開封して中身を確認すると、
ルーマニアの田舎の民家から譲ってもらった手作りのものだったりして
ほっこりとした気持ちになる。
そんな事をやっているから捗らないのだけれど、こういう時間もまた楽しい。
こんなふうにして最後の夜は過ぎていきました。

今度行く時には、これまでよりももっと長い時間をかけて
東ヨーロッパを周りたいという気持ちが生まれました。
それほどに、今回の旅はこれまでとまるで違ったものとなりました。
さらにこの土地に惹きつけられた。
ぐっと強い力で惹きつけられていくのを感じました。

text by : yuki

***あとがき***

いつも旅日記を読んでくださりありがとうございます。
帰国してからなんだか忙しく、ずいぶん時間がかかってしまいました。
気付けばもう秋です、、、。
この日記を読んでくださり、いろいろお話ししているうちに
興味を持ってくださったご夫婦が、今ルーマニアとハンガリーの旅に出ています。
今ごろルーマニアにいるのかな。いいなぁ。
そんなきっかけをもたらす事ができて本当に嬉しいです。
今は2人の帰国が、旅の話がとても楽しみです。 yuki
 イエウド村のおばあちゃんと。
*************************

旅に出てからもう半年。
泥道を馬車が走るマラムレシュが懐かしい。
雪山を越えた後のサルマーレが恋しい。
寝ても起きてもルーマニアが頭から離れない。
早くまたルーマニアの友人とツイカを酌み交わしたい。
そのおかげで今は新しい目標が出来た。
いつかルーマニアでゆっくり暮らしてみたいと。 tetsuya
 ボグダン・ヴォーダ村のおじさんと。
*************************
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ハンガリー旅日記 12日目 3/6
この日は遠出をする予定でした。
ブダペストからバスで2時間ほど北にあるホッロークーという
民族衣装や住居が独特なトルコ系クマン人の末裔の村へ。
前々から気になっていた村ですが、なかなか足を伸ばせる機会がなく
今回こそは!と思っていたのですが、1日に2本しかないバス
(日帰りなら実質1本)はすでに出発していました。

仕方がないので、今日ものみの市へ繰り出す事に。
エチェリよりも近い、市民公園の中にあるペトフィの市へ行きました。
緑に囲まれた公園の中で開催されるからか、
この市はエチェリに比べて和やかな雰囲気です。
骨董市というよりもフリーマーケットといった感じ。
 
面白い掘り出し物がたくさんあります。大好物の特大プレッツェルも!

見覚えのある民族衣装が目に付きました。
ルーマニアにあるハンガリー人村、シク村のおばあちゃんが出稼ぎに来ていました。
シク村の家庭で見かけた赤や青の鮮やかな刺繍のクロスが売っていて、
残ったレイ(ルーマニアの通貨)でたくさん買いました。
3日前にシク村に行った事を告げると、とても驚いた様子でした。
 
シク村の民族衣装を着たおばあちゃん。刺繍のきれいなクロスが並ぶ。

琺瑯の食器や細々とした雑貨類を買って、市を後にする。
ホテルに荷物を置いて、戦利品を並べて、また町へ。
昨日閉まっていた人形劇場へ行ってみる。
 
立派な石造りの建物の国立人形劇場。 外には可愛らしいポスターが。

人形劇場は今日も閉まっていたけれど、館長らしき女性が
特別に中を案内してくれました。
ロビーには人形劇に使われる操り人形がたくさん飾られていて
劇場の雰囲気を少し味わう事ができました。
人形劇は見られなかったけれど、民族舞踏が見られるかと思い、
思い切って館長さんに聞いてみました。
(人形劇場でダンスの公演などもあるのです。)
すると、今は民族舞踏のプログラムはないとの事。あぁ〜残念。
でも、館長さんはどこかに電話をして問い合わせてくれました。
そして唯一得られた情報は、来週催される公演の事でした。
明後日にはここを発ってしまうので、見られる公演はなかった。
ずっと思い続けている民族舞踏ですが、なかなかタイミングが合わない。
いつか素敵な衣装とダンスの華やかな舞台を見てみたい。
 
子供じみていない劇場の入り口。  飾ってあったモニュメント。

朝の曇り空からずいぶんと晴れてきた昼。
人形劇場からほど近いミューヴェースという歴史ある老舗のカフェに入る。
オペラ劇場の向かいにあり、その名もアーティストという店名。
昔からオペラの出演者がよく訪れる事で有名らしい。
 
昔ながらの雰囲気の店内。 天井が高く大きなシャンデリアが光っている。

トーンダウンした照明が落ち着く、クラシックな店内には
ひとり静かにティータイムを楽しむおばあさまや、
おしゃべりに興じている若奥様たちとパフェを頬張る子供がいます。
午後の幸せなひとときという感じ。
いつも注文するグヤーシュもここではお洒落なスープに変身していました。
少しだけ高貴な気分になれる、とても雰囲気のいいカフェでした。
  
文字の書かれた大きな鏡の下の席で。 上品な味のグヤーシュ。

それから地下鉄でモスクワ広場へ行き、気になっていたバルトーク記念館へ行く。
バルトークは作曲家でもあり、ピアニストでもあり、東ヨーロッパを中心に
民族音楽の収集に努めた偉大なる人物でもあります。
その民族音楽の収集活動の精力的な事といったらすごかったようで、
小さな農村を自らの足で回り、時にはアフリカまで赴いたらしいのです。
ほとんど聴かないクラシックの中で、唯一よく聞くのがバルトークです。
切なくも優しいハンガリーの空気をまとったピアノ演奏はとても心地いいものです。

バルトーク記念館まで行くバスを探すのに苦労して、
何度も道行く人に聞きながら、やっとの思いで見つけました。
駅付近からいくつも出ているパスの一番奥にあったバス乗り場で、
閉館時間を気にしながら、なかなか来ないバスをやきもきしながら待つ。
やっと来たバスに乗り、ぐんぐん坂道を登っていく。
昨日乗った登山鉄道や子供鉄道の走るヤーノシュ山の方面です。
 
途中でお化け屋敷のような蔦に覆われた家を見つけた。

バスを降りてからも急な坂道を登り、閉館時間のほんの少し前に
ぎりぎり着いた〜!とほっとしたのも束の間、扉が閉まっている。
張り紙を見ると、どうやら今日は休館の様子。
ここまで来たのに、がっかり、、、。
ガイドブックには書いていなかった冬時間が存在するのか、時間が変わったのか、
閉館時間は1時間早まっていて、休館日は月曜とさらに日曜も加わっていました。
バルトークのかつての住居を利用しているだけあって、
とても興味深かったのに、とても残念でした。
肩を落としながら記念館を去り、また急な坂道を下りバスに乗る。
 
目立たないとても質素な記念館。 目印はこの表札だけ。

町に戻るとすっかり暗くなっていました。
地下鉄を降りてくさり橋に向かう途中にふと思い立ち、
民族舞踏をやっているのではないかと思い、
ブダイ・ヴィガドーというフォークロアの劇場に寄ってみました。
入り口には衣装を着てくるりと踊り回っている人の写真があり、
期待して入ったのだけれど、その看板は昨日の公演だった。
今日は講演会のようなものが行われていて、学生がたくさん集まっていた。
中を少し覗いてみたら民族調のとても素敵な建物でした。
次回は一番にここに来て予定を調べてから旅を始めなくちゃ。
 
館内には舞踏用の民族衣装が飾ってありました。

そこから夜景の綺麗なくさり橋を渡り、ブダペストのメインストリート
ヴァーツィ通りをのんびりと歩く。
夜の繁華街は、飲食店の連なる賑わう通りと、そこからすぐそれた通りは
見事にひっそりとしていた。人通りのない通りは淋しい。
毎回通っていたお土産屋さんに寄ろうと思ったら、店が変わっていた。
ハンガリーを代表するお土産品から民芸品までなんでも揃っていたのに
なくなってしまってとても残念。
なんだか淋しい気分に襲われながらホテルに帰る。
 夜のくさり橋。

今日は遠出もできず、人形劇も舞踏も見れず、記念館も閉まっていたので
ちょっと切ない1日でした。
でも、旅をしていたらこんな日もあります。
自由きままな旅なので、思い通りにいかなくても仕方がない。
そんな時にすぐに気持ちを切り替えて次の行動に移れるかが大事。
明日は最終日。楽しい1日を過ごそう。

text by : yuki
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ハンガリー旅日記 11日目 3/5
今回ブダペストで泊まったのはHOTEL GLORIA。
木製の扉が可愛らしい小さなホテルです。
ここはレストランも兼ねていて(でも営業している様子なし)
朝食は1階のレストランでとります。
普通のホテルと同じく簡単な朝食ですが、
パンの量に比べてなぜかハチミツやジャムの種類が揃っていて、
愛嬌のあるクマボトルのハチミツを独り占めできます。
朝食べるバターたっぷりのハチミツトーストってとても幸せ。
 
こぢんまりした可愛いホテル、HOTEL GLORIA。
 
落ち着いた良い雰囲気のレストラン。 キュートなクマボトルのハチミツ。

今日は土曜日。のみの市の日。
中心地から少し離れたところで開催されるエチェリの市へ向かいました。
電車とバスを乗り継いで着いたエチェリは、
1年前と出店者がほとんど変わっていなかった。
 
エチェリは屋根のある常設のみの市。 その辺にテディベアがごろん。 

入り口に近いところに店を構えるおばあちゃんの姿が見えた時
駆け寄ってしまうほどすごく嬉しかった。
去年狂気乱舞した、素敵な刺繍のクロスをたくさん売っている
おばあちゃんのお店です。入場して早速足留めとなった。
今回も山積みになっているクロスを1枚1枚見定める。
厳選しても、どれもいいものばかりなのでかなりの重量になってしまいます。
おばあちゃんはメモ用紙に鉛筆でゆっくりと計算をしていくのだけれど、
量が多すぎるからか、どうも途中で足し算がめちゃくちゃになっているようです。
仕方がないので、0が増えたり減ったりする計算が終わるまで見守り、
じっくり値段交渉する。この交渉が買い付けの醍醐味でもあります。
 
必ずいいものが見つかるおばあちゃんのお店。

おばあちゃんの次は、去年ペトフィの市にいたおじちゃんに会った。
私たちが親分と呼んでいるおじちゃんは一見強面なんですが、
前回キュートなうさぎのぬいぐるみをプレゼントしてくれたのです。
それもとても照れながら。外見とは裏腹にやさしい親分。
強面ぶりの健在な親分は、いつものドスのきいた声で、
呼び込みの「スーパーチープ!」を今回も連呼していました。
 親分と夫(舎弟?)。

朝から昼過ぎまで、くまなく会場をまわりくたびれた頃
場内にある小さなカフェに入りました。
ハンガリーに来たらやっぱりこれ!グヤーシュを頼み、席に着きました。
すると、相席していいですかと男性が同じテーブルに座りました。
彼はここから10分足らずのところに住んでいるそう。
絵画の好きなザランディーさんは、毎週散歩がてらエチェリに来て
売りに出ている絵画を見て、このカフェで食事をするのが恒例らしい。
ザランディーさんはシュニッツェルバーガーを変わった食べ方をしていた。
かぶりつくのではなく、上のパンをちぎって食べて、
シュニッツェルもちぎって食べて、最後に下のパンもちぎって、、、と。
謙虚で上品な人柄を表すような食べ方だなぁと思った。
彼は教育関係の仕事をしているそうで、日本語もいくつか知っていた。
今度来た時はブダペストを案内するよ!と言ってくれました。
  たまらなく可愛いゾウ!でも片目がない、、、。

ザランディーさんは、話の最中に「今日はノイジーだね」と苦笑いをしていた。
何度も騒音によって会話がかき消されてしまい、
「いつもはこんなにうるさくないんだけど」と困り顔でした。
そう、さっきからダチョウ倶楽部の竜ちゃんそっくりのおじさんが
酔っぱらって大騒ぎをしているのです。
人の帽子にお酒を注いだり、帰ったと思ったらまた現れたり。
何度も他人と握手をしたり、乾杯したり。
しまいには自分でこぼしたお酒で転んだりして、もうめちゃくちゃ!
まるでコントを見ているようでかなり面白かったです。
 このおじさんもコントみたいだった。ずるずるズボン!

膨れ上がった荷物を抱えてホテルに戻り、
以前から気になっていた子供鉄道に行く事にしました。
”子供鉄道”という名前だけでもう惹かれるものがあります。
子供鉄道は、10〜14才の子供たちで運営されている鉄道です。
運転手以外の業務を全て子供たちが賄っているそうです。
地下鉄、バスを乗り継いでヤーノシュ山の中腹に着いたのはもう夕方。
案外地元の人は行き方を知らないようで、ここまで辿り着くのにやっとでした。
でも、着いたところは「ここ?」と疑うほど殺風景なところでした。
駅舎はなく線路は見えたけれど、誰もいない、、、。
 
静まり返った駅には看板とベンチがぽつりとあるだけ。

風が強く吹いて寒く、本当にここを列車が走るのか不安に思っていたところ、
小さな女の子を肩車したパパが来て、もうすぐ到着する事を教えてくれた。
寒さに凍えながら待ちに待った列車は、、、なんて可愛いんだろう!
3両だけの小さな車体から車掌の制服を着た子供たちが飛び出してきた。
扉を開けて誘導してくれる。あどけない表情が本当に可愛い。
 
ゆっくりと、大きなブレーキ音をたてて、ついに列車が来た!

車内は小さなベンチが向き合うように設置されていて、
数人の大人と家族連れが乗っていました。
窓には山林の風景が延々と続いています。
じきに小さな車掌さんが数人やってきました。
「切符はいけ〜ん」という感じで声を張り上げています。
切符を買った夫は、最後に「バッヂもいかがですか?」とすすめられ
その愛くるしい表情に負けて汽車のバッヂを買っていました。
汽車バッヂを胸元につけて、気分は子供の遠足。
 
一生懸命に仕事をこなす小さな車掌さんたち。 
 
ついつい買ってしまったバッヂ。 ここから1つ選ぶ。

ひと駅ごとに、「次は…駅で〜す」「…駅で〜す」と到着を教えてくれます。
本当はもっと乗っていたかったのだけれど、登山鉄道への乗り換えもあるので
帰りの時間を考えて、終点までは行かずに折り返す事にしました。
上下線の乗り換えが出来る駅では出発が遅れていたらしく、
乗り換えの際に、これから乗り込む車両の窓から
「急いで!」「早く!」「走って!」と催促する声が飛んだ。
小さな車掌さんたちが高速の手招きをしていた。
慌てて飛び乗ると「まったく世話がやけるな〜」というような
ジェスチャーをするから面白い。大人顔負けの車掌だ。
可愛い笑顔に癒されて子供鉄道を降りた。
 
小さなベンチが並ぶ車内。  乗客はのんびり車窓を楽しむ。
 
登山鉄道に乗り換えられる始発/終着駅。 身を乗り出す車掌さん。

帰りは、山の斜面に合わせて車両が傾く登山鉄道に乗り換えて、
山林の鉄道旅は終わり。地下鉄で中心街へ戻りました。
そして、乗り間違えた地下鉄の車内で急遽サーカスへ行く事に決めました。
たまたま乗り間違えた方向にサーカスがあったから。思いつきです。
サーカスはこれで2回目。前回、悲願のサーカス鑑賞ができたのです。
あの独特のショーがまた見られる!サーカスは最高のエンターテイメントです。
市民公園を抜けて現れたのはネオンの光る常設のサーカス場。
いかにも楽しい事が始まりそうな熱気を帯びています。
 百年以上の歴史をもつ国立大サーカス。

チケットを買って、開演前で賑わうホールで特大プレッツェルをかじる。
本格的なのではないけれど、このプレッツェルは本当に美味しい。
ソフトでほんのり甘いパン生地に塩味のきいたチーズがかかっています。
あたりを見回すと子供から大人までみんなこれを頬張っています。
  
やみつきになる美味しいプレッツェル。 顔よりも大きい!

いよいよ開演。照明がだんだんと暗くなって司会者にスポットが当たります。
会場に響きわたる楽隊の生演奏も心地良い。
アクロバットに続いて出てきたのはピエロ。
お客さんを舞台に引っぱり上げての曲芸は観客の笑いを大いに誘っていました。
それから猫、犬、馬、ライオンと次々に大きな動物が登場して迫力がありました。
前回とはまったく違うプログラムで、とても楽しかったです。
 
足並みの揃った美しい馬の演技。  緊張感のあるライオン使い。
 
椅子の積み上げ芸もすごい。 空中ブランコはシルエットが綺麗。

すっかり夜になった外へ一斉に出て行くお客さんたち。
子供たちはまだ興奮冷めやらぬ感じです。
帰りがけにスーパーに寄って私たちもホテルに帰る。

シク村でおじーにもらったツイカをスモモジュースで割って飲んでみると
まろやかになって美味しい。(スモモはツイカの原料だから合うのかも。)
1日中干しても乾かないシク村のシャツはもうホテルのカーテンのよう。
小さな窓はシャツ2枚で全部覆われてしまう。
シャツのカーテンをかき分けて外の空気を吸ってから眠りについた。

text by : yuki
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ハンガリー旅日記 10日目 3/5
いつの間にか国境を越え、
ハンガリーの首都ブダペストに着いたのは早朝の4時。
明かりのついていない真っ暗闇の長距離バスターミナルに
まるで放り出されたように寝ぼけている私たちは取り残されました。
同乗していたおばあちゃん3人組はいつの間にかいなくなっていた。

ここからホテルは近いはずですが、トランクを引きずって歩く気力もなく
まだあまり走っていないタクシーをなんとか拾う。
ホテルにはたったの5分で着きました。
気の良さそうな髭を生やした運転手は「3千フォリントだよ」と言いました。
ハンガリーフォリントは前回の旅で結構残っていたので、
やっと出番がきた事を少し嬉しく思っていたところ、違和感が。
、、、ん?この距離にしてこの値段は高過ぎます。
まだぼんやりしている頭で考えても、おかしい。
とりあえず荷物をおろしてから、夫がメーターいくらか聞くと
「どうしたんだ?何で支払わないんだ?」と質問には答えず怒っている。
押し問答の末「警察に言ってやるからな!」と怒鳴って慌てて逃げていきました。
どうやら他国からの早朝着のバス乗客を狙ったぼったくりタクシーのようです。
こういう時、気を付けていても通貨に慣れていないとうっかり支払ってしまう。
危ない危ない。でも、結局タダで乗れたのでよかった!

ホテルのレセプションには眠そうなお兄さんが立っていました。
とりあえずトランクだけ置かせてもらって、
雨のぱらつく静まり返った街を歩き出す。
 まだ薄暗いブダペストの街。

トラムはまだ走っていない。
地図をたよりに大きな東駅へ散歩がてら歩いて向かう。
暗くて、視界に面白いものが何も入ってこないと遠く感じるもので、
30分くらい歩いただけでどっと疲れてしまった。
ルーマニアの田舎と違って”都会”を感じるせいかもしれない。

やっとの思いで着いた東駅は、今まさに動き出したばかりという感じ。
まだ仄暗い明かりの中でチケットを買う。
行き先は、魅力的な郊外都市のセンテンドレ。

乗り換え駅では、駅舎のライトは煌々と光り、人々も行き交い始めました。
ここで朝食のパンを買う。ブダペストはほとんどの駅に
パン屋が入っていて、駅内で焼きたてパンを買えます。
パンをかじりながら郊外電車に乗って、40分ほどでセンテンドレに到着。
 若草色のセンテンドレ駅。

曇り空のセンテンドレは、週末こそ観光客で賑わう町ですが、
平日の朝は静寂に包まれていました。
町の中心まで軒並み閉まっている商店街を歩いていく。
まだどの店も開きそうな気配のない中、
透明のビニールシートで出来たテントのようなカフェが開いていました。
まわりを見渡す事のできるこのカフェで、町が目覚めるのを待つ。

2時間以上も、旅の計画を練りながら居座っている私たちを
優しい眼差しで放っておいてくれる店のおばさんに感謝しつつ
9時を過ぎた頃、再び町に繰り出してみる。
 町の中心にある広場。

古書店やアンティークショップ、文具店で可愛い雑貨をたくさん買い、
小雨の降る静かな町をうきうきと行き来する。
それからずっと気になっていたマジパン博物館へ行きました。
マジパンは、アーモンドの粉末とシロップを混ぜて作る細工菓子です。
2、3階にマジパンで出来た作品がたくさん飾られていて、
歴史的建造物を緻密に再現したものから童話の世界、アニメのキャラクター、
等身大のマイケルジャクソン(今思うと感慨深い、、、)までいました。
1階にはアトリエがあり、実際に制作しているところが見られます。
アトリエの隣にはショップがあり、様々な形のマジパンやチョコを売っています。
そこで可愛い果物形のマジパンを買う。お土産にもぴったり。
 
作品を生みだすアトリエ。  小人やブタなどの可愛いアルミ型。
 
60kgも使用したという国会議事堂。 こんな所でマイケルに会う。

お土産屋通りを覗いていると、飛び抜けて良い民芸品店を見つけました。
ハンガリーの民族衣装がたくさん揃っています。
大興奮で品定めをして、貴重な民芸品をいろいろと買いました。
昨日行ったルーマニアのシク村の衣装なども置いてあり、
ふと、シク村のおばーの言っていた事を思い出しました。
ブダペストの民芸品店に衣装や作品を送っていると。
こうしてなにげなくお店に売っているものが、
隣国の小さな村のおばあちゃんが持っていたり
作っていたりするものだと思うと不思議な気持ちになる。
だんだんと、小さな村に民芸品が少なくなってしまう不安がよぎる。
 
お土産屋通りの裏は住宅街。淡い色の家がきれいな町並みをつくる。

お客さんが少なく、暇そうに一服している店員さんが見受けられる
少し淋しそうなお土産屋通りを見終え、遅いランチをする事にしました。
でも、どこのレストランもがらんとしている。
気軽に入れて雰囲気がいいのは、やっぱり朝入ったあのテントのカフェ。
再びの来店にお店のおばちゃんは微笑んでくれました。
そして隣に座っていたおじいちゃんは、なぜか何度もウインクをしてくれました。
 犬を連れたおじさん。

急に晴れて快晴となった空をドナウ川が見事に映していた。
川沿いを散歩して、ゆっくりとまわる事ができたセンテンドレの町を後にする。
お土産屋がひしめき、いかにも観光地という印象だったセンテンドレですが、
今日は、眠たそうなのんびりとした一面が見えました。
 美しいドナウ川。

郊外電車のHEVは、各駅に停車するごとに可愛らしいチャイム音が鳴ります。
その音が少しずつ遠のいていくのを感じながらうたた寝。
あっという間にブダペストに戻ってきました。

ホテルに戻り、まだ夕方なのでどこかに出かけようと思いつつ
でも体は疲れきってしまって動かない。
どんどん日暮れていく空のした、
ホテルのまわりを1周散歩して1日が終わった。

田舎と違って不自由を感じないブダペスト。
突然水になってしまうシャワーをヒヤヒヤしながら使っていたのが懐かしい。
たっぷりのお湯でたくさんの洗濯物を手洗いした。
汚れていたシク村のシャツがいきいきとした白に生まれ変わったのが嬉しかった。
 夕暮れのブダペスト。

text by : yuki
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ルーマニア旅日記 9日目 3/5
ホステルのベッドの上で、昨夜スーパーで買った
ストロベリーヨーグルトやチョコクロワッサンを食べる。
ホテルのビュッフェもいいけど、こういう朝食も好き。

ホステルに大きな荷物を預かってもらい、駅へと急ぐ。
9時発の列車に乗ってゲルラーという駅で降りる。
ここからさらにタクシーで20分ほどかけて
なだらかな丘を越えると見えてくる、あの村。
マラムレシュと同じくらい愛しい村、シク村。
 民家から見えた花柄のスカーフ。

シク村は、ハンガリー語しか通じない、生粋のハンガリー人村です。
鮮やかな赤い衣装を今でも身にまとい生活をする村人の姿を見たくて
去年もはるばる訪れました。
でもその時は、今よりももっと寒かったからか、弔いがあったのか、
村人は皆黒い衣装を着ていたのでした。

でも、タクシーから降り立った村の印象は去年と少し違います。
雪で覆われて真っ白だった村は、落ち着いた赤茶色の民家の屋根と
若草の絨毯とで、早くも春を感じさせるものでした。
そして、この日初めて出くわした村人はなんと!赤い衣装を身にまとっていました。
本当に鮮やかな赤、目にも目映い赤です。(しかも、偶然にも赤いバスの前で!)
嬉しくなって「素敵ですね」と声を掛ける。
着ていたコートを脱ぎたくなるほど、心が温かくなった。
 心に春が来る赤い衣装。

可愛らしい赤いおばーに遭遇した後に村を見渡すと
次々と赤い人々を遠くから見かける。
穏やかな村の色彩の中、”赤”があちらこちらを行き来しています。
その風景に興奮して、闘牛のように”赤”に突進していく。
進んだ先で出会ったのは、仲良しのおばー4人組。
やっぱりみんな”赤”の何かを身につけています。
 
おしゃべりが弾む仲良し4人組。 途中でやってきた1人の旦那さん。

その中の1人のおばーが家に招き入れてくれました。
階段を登って1歩家に入ると、そこは”赤”の世界でした。
息をのむような、素晴らしい世界。
丹念に織られたベッドカバーに、可愛らしいクッションの刺繍。
繊細な手描きの家具に、立てかけられたたくさんの絵皿、、、。
赤をベースに、ハンガリーカラー(国旗)である緑や白も加わって
調和のとれた美しい部屋にしつらえてありました。
その調度品の数々に圧倒されてただただ驚くばかりの私たちに、
おばーはアルバムを取り出して他の作品も見せてくれました。
でも、それは祖国ブダペストに送っているそう。
フォークロアを愛好している人や民芸品店に売っているらしい。
 
赤の部屋には刺繍のクロスがいっぱい。刺繍のクッションも山積み。
 
手描きの絵皿は飾り用。  赤の御殿に住む赤いおばー。 

女性は赤の衣装を身にまとっていますが、
男性はみんな紺色のジャケットやベストを着ています。
羊の毛で出来たやわらかいフェルトの紺地に金のボタンが並んでいるもの。
女性の”赤”に負けず劣らずこちらも素敵な民族衣装です。
夫婦が腕を組んで歩いている時など、
赤と紺がぴたりとくっつくとより素晴らしいコントラストを生みます。
 紺のベストを着たおじー。

村をぶらぶら散歩していると、
軒先にブーツが数十足もぶら下がっている家の前を通りかかる。
靴職人の家かな?と思い、覗いてみたけれど、お留守のようでした。
それにしても不思議な、物語の一幕のような光景でした。
 
家の軒先にブーツがずらり。  一体、何人分だろう?

散歩をしながらも、実はある人を探していました。
去年出会った、豚飼いのおじさん。
ひょんな事から、地酒のツイカをご馳走してくれたので、
ツイカおじーと呼んでいます。
その時に一緒に写真を撮ったので、それを直接渡したいのです。

道行く村人に尋ねながらツイカおじーの家を探す。
さすがは小さな村。写真を見せるだけでみんなすぐに分かり
「あっちだよ!」と指差して教えてくれます。
去年行ったのだから絶対に分かると思っていたのに、
ツイカおじーの家探しは難航していました。
そんな時、数人目に聞いたおばさんが、「ついてきなさい」
というので、半信半疑でぬかるんだ道へと入って行く。
ちゃんと話が通じているのか不安に思う私たちをよそに、
おばさんは早口でいろいろと話しかけてくれます。
そして、首に巻いた黒いスカーフをしきりにひらひらさせています。
何度も眠るジェスチャーをしていて、どうやらお葬式があるようです。
 
村を歩くとなぜか懐かしい気持ちになる。 番地の表示が凝ってる。

しばらく歩いたら、おばさんは家の門を勝手に開けて
どかどかと入っていきました。
そうだ!ここだ!見た事のある赤色のお洒落な鉄格子。
家の扉を開けて再会を喜びハグをしあうおばさんと奥さん。
事情を聞いた奥さんは、私たちにも嬉しそうにハグしてくれました。
ツイカおじーと同じく、心優しい奥さん。
案内してくれたおばさんにお礼を言うと、お葬式へと足早に向かいました。
 そうそう、この家!

私たちを家に招いてくれた奥さんは、
ソファーで寝ていたおじーを起こして手早くカバーを整えて、
ここに座りなさいと言って飲み物を出してくれました。
オレンジ味の甘〜い炭酸水でした。
寝起きのおじーは最初こそ驚いた様子でしたが、
一緒に写った写真を見て大喜びしてくれました。
それから大急ぎで退室したと思ったら、
グラスに入ったツイカを持ってきてくれました。
なぜかペットボトルに入った1本の水と共に。
ツイカは相変わらず強くてキツい!でも、思い出の味。

夫婦はさっきからいそいそと立ち回っています。
汚れた靴に靴墨を塗ったり、シャツを着たり忙しそう。
おばさんと同じくお葬式に行くそうです。
あまり長居しては悪いので、ツイカを飲んでおいとましようとすると
夫婦はとても残念そうな顔をしていました。
「次はいつ来るの?」との問いに「来年!」と答えると、
持ってきた写真の中の豚が写っている1枚を指差して、
「今度来た時はこれを食べよう!」と笑顔で言っていました。
 左上の豚を指差していました。(具体的!)

別れ際、奥さんは私たちの頬にキスをしてくれました。
おじーは靴磨き中で靴がないので、裸足で外まで見送ってくれました。
少しの間だったけれど、会えてよかった。
また来年、今撮った写真を渡しに行こう。
 心優しい夫婦。ありがとう!

村の中心にある教会を通り過ぎて、
前に買い物をさせてもらったアンティーク屋さんに行ってみる。
前を通るとちょうど店主のおじーが立っていた。
「店を見ていってよ!」と大きな扉を開けてくれました。
中に入って、写真を渡すと喜んで売り物の額に飾っていました。
納屋ような、ちゃんとした店なのか趣味で集まったのかよく分からない室内には
食器や民族衣装や細々としたいろいろなものがその辺に散らばっています。
その中で、これまで憧れの眼差しで見ていた
シク村の民族衣装のアコーディオンプリーツ袖のシャツと、
男性が着用している紺のジャケットを買えたのがとても嬉しかった。
夫はジャケットを羽織って目を輝かせていた。
民族衣装を着ると、その土地がぐっと身近に感じられる。
 
素朴でいい雰囲気の食器が並んでいる。 アンティーク屋おじーと夫。

お店の斜め向かいには、羊飼いのおじーの家があります。
去年、写真をたくさん撮らせてもらったので、
羊飼いのおじーにも写真を渡しに行ったのだけれど、不在でした。
大切な羊を残してどこに行ってしまったんだろう。
門も開けっ放しに、家の扉も開けっ放しになっていました。
少し待ってみましたが、帰ってくる様子がないので
写真を家の中に置いて再び散歩に出かけました。
おじーが帰ってきて写真に気が付いた時、どんな反応をするんだろう。
びっくり仰天するかな、腰を抜かすかもしれない、、、と考えるだけでも楽しい。
でもやっぱり直接手渡して、驚き喜ぶ様子が見たかったのに、
会えなくてとても残念でした。
 
枯れきった植物の入った琺瑯鍋。 門が開いている。
 
 扉も開いている。    羊小屋には羊を残したまま、、、。

シク村をくまなく歩き回って、最後に丘の上から村を一望する。
丘の上に建つ白亜の教会のすぐ裏手にある
見晴らしのよい高台に設けられた長椅子に座ってぼんやりするのが心地いい。
アンティーク屋おじーのところで買った丸カゴとボーを並べて、
それを挟むように座って、村を見下ろしながら2人でぼんやり。
ここからいろんな季節を見てみたいものです。
 
心落ち着く教会裏のベンチ。  いつかこの教会にも入ってみたい。
 
ボーはいつだってぼんやり。 シク村に春の気配を感じる。

教会の下のバス乗り場へと階段を降りて行く。
来ていたバスに乗り込んだら、ちょうどツイカおじーの家に案内してくれた
おばさんが先頭に乗っていました。お葬式は終わったようです。
ゲルラーのバス停に着いたら、おばさんは親切に駅まで案内してくれました。
おばさんはゲルラーに住んでいるそうで、食事に誘ってくれたけれど
今晩ルーマニアを発つので時間が心配で、残念ながらお断りしました。
親切な人ばかりに出会って、心がほぐれる。

ゲルラー駅で列車を待っている間、買ってあったビスケットを食べようと思い、
ふとツイカおじーの家でもらった水がある事を思い出しました。
ちょうどよかったと思い、水を飲もうとフタを開けて口を近づけると、
モワ〜ンと強いアルコールの香りが鼻を突きました。
、、、それは水ではなくて、ツイカでした。
どうやらおじーがお土産に持たせてくれたようです。
それにしても、ボルセック(ミネラルウォーター)の容器に
透明のツイカをなみなみと注がれていたんじゃわからない。
水と思い込んでいて、飲めなかった時のあまりの喉の乾きと、
おじーの優しさとに、思わず吹き出してむせてしまった。
どこまでも親切なおじー、素敵なお土産をどうもありがとう!
 いつまでも目に焼き付くシク村の風景。

ゲルラーからクルージに帰ったのは18時頃。
今夜23時のバスに乗ってお隣の国ハンガリーの首都ブダペストへ行く。
バスの時間まで余裕があったので、レストランを探す。
翌朝にはハンガリーに着くというのに、なぜかハンガリー料理屋に入った。
店内は可愛らしく装飾されていて、ハンガリーの香りが漂う。
ルーマニア最終日だというのに、ハンガリー人村に行って、
夜にはハンガリー料理を食べて、ハンガリーへ旅立つなんて変な感じ。
でも、ルーマニアとハンガリーの関係は切っても切れないもの。
 
窓側の席でした。カーテンが素敵。 天井は花柄のタイル。

ちょうど店内ではヴァイオリンの生演奏をやっていて
切ないメロディーが流れる中、美味しいグヤーシュやチキンソテーを食べた。
ワインも甘めですごく美味しくて、幸せな気分でした。
  
グヤーシュは本格的な味で美味しい。 ヴァイオリンの生演奏。

ホステルに帰って、少し休憩してから
ブダペスト行きのバスが出るナポカホテルの駐車場に向かう。
ナポカホテルは去年泊まったホテルで、なかなかいい雰囲気だった。
余裕をもって行ったはいいけれど、ここから他国行きのバスが出るとは思えない。
殺風景な広い駐車場には乗用車がたったの数台止まっているだけだった。
不安になってホテルのスタッフに聞いてみても「わからない」の一言。
ますます焦って、バスのチケットを発券した旅行会社が近くにあったので
確認をしに行ってみたら、パジャマを着たスタッフが出てきた。
「ちゃんとバスは出るから心配しないで」と言われたのでやっと安心した。

バスは30分前に来た。
ミニバスの後ろに荷物置きが連結されていて、思ったより小型だった。
乗客は私たちの他におばあちゃん3人組だけ。
おばあちゃんは大きな荷物を積んでいた。出稼ぎに行くのだろうか。

バスがいつ出発したか分からないくらいすぐに寝てしまった。
途中、パスポートコントロールがあり、ぼんやり薄目を開け、またすぐに閉じた。
暗闇のルーマニアを走り続け、いつの間にか国境を越えていた。
さよならルーマニア。
おはようハンガリー。


text by : yuki
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ルーマニア旅日記 8日目 3/4
マラムレシュを離れる朝。
夜に焚いてくれる暖炉の火が消えて少し肌寒いけれど、
朝日が差し込んできて気持ちが良い。
 
冷蔵庫の上にはいつでもツイカとジャムが置いてある。

朝食を運んできてくれたパパにクルージまでの帰り方を聞く。
すると、バスに数分乗りイザという駅まで行けるとの事でした。
マラムレシュの最寄り駅はこのイザ駅のようです。
ついでにバスの発車時刻も教えてもらう。
 泊めてもらった部屋。

昨夜の絶品シュニッツェルがメインの朝食をたいらげて
余裕をもって出発する。
パパは照れくさそうに一緒に写真に写ってくれました。
ママは出かけてしまっていたようで残念でした。

パパは一見仏頂面だけど、たまに見せる笑顔が素敵。

木造教会の前がバス停と言われたので、そこで待つ。
停留所名の書かれた標識や目印が何も無い。
ただの道に、人が少したむろしているだけ。
どうやらこの人たちもバスを待っている様子です。
聞くと「ここで待っていればいいのよ」
「そう、そう、そう、そう、、、」と皆が頷いてくれる。
誰か1人に聞くと、すぐに皆集まってくる。
子供からは「あげる!」とパンまでもらってしまった。
 洒落た帽子を被ったおじさん。最高の笑顔!

でも、パパに教えてもらった時間を過ぎてもバスは一向に来ない。
ここで待っていればいいと言ってくれた人たちは、
バスを待ちながらもヒッチハイクをしている。
それも、そこにいる人皆が一斉に手を挙げて車を止めると、
順番があるらしく、(先着順なのか、年齢順なのかは謎)
決まった人から順に乗り込んでいきました。
そうこうしているうちに40分遅れでバスがやってきました。
 村の中心の朝の風景。

バスは満席で、「イザ駅へ行きたい」と告げると
前に座っていた若いお兄さんが「着いたら知らせてあげる」と言ってくれた。
20分ほど乗っていたら、「ここ、ここ、降りて!」と突然促された。
また何の標識もない、ただの道の真ん中に降り立つ。

パパが描いてくれた、かなりラフな駅への行き方の地図を見ながら
急な坂を上り、急な階段を登ったら、、、、線路が見えた。
小さな駅舎も見えた。ここがイザ駅だ!
 
田舎らしいとても小さな駅。 手描きの車両案内図が可愛い。

切符を買って、列車を待つ。
ほんの数分で列車は到着。なんていいタイミングなんだろう。
これに乗れなかったら夜まで列車がない!なんて事も考えられる、、、。
駅員さんは列車の到着にあわせてホームへ出て、旗を挙げている。
そこへ、今から乗り込むという村人(おじさんたち)が
駅員さんに雪を投げつけて遊んでいます。すごく楽しそうでした。
仲の良い友達なのかな、微笑ましい光景でした。
  
山の斜面を通る線路。  雪合戦後に笑いを隠せない駅員さん。

車内では、突然コンパートメントのドアを開けて
りんごを差し入れしてくれるおじさんがいた。
2時間弱のんびり田舎町の景色を楽しんだ後、
サルバという駅で乗り換えて、クルージ行きの列車に再び乗車。
そこでは、イザ駅から一緒だったおじさん、イオアンさんが
隣の席に来てくれて、英語でおしゃべりをしました。
イオアンさんはイザ駅のあるサリステア・デ・スス村で
ペンシオーネを奥さんと営んでいるとの事。
そして、写真家でもあり、弁護士でもあり、エンジニアでもあるらしい。
今度はイザ駅で降りて、イオアンさんのペンシオーネに泊まろうと思う。
偶然に出会った人とのつながりが、次の旅の楽しみになるのが嬉しい。
 乗り換え駅にいた野犬。
以前飼っていた犬に顔つきや模様がそっくりで驚きました。

クルージに着いたのは15時。
たくさんの人で溢れかえる駅に、ちょっと面食らう。
イオアンさんと別れて、トランクを預かってもらっているホステルに帰る。
一睡もしないでマラムレシュに出発した数日前がすごく懐かしい。

夕方のクルージを散歩する。
クルージは博物館や美術館が多い。大学も多いのではないかと思う。
落ち着いた印象を受けますが、若者が多く、活気にも満ちています。
趣きも残しつつ綺麗に整った街で、お店もたくさんあり、何もかも程良い街。

散歩に最適な城塞に登ってみました。
街の中心から川を渡ると目の前に立ちはだかる丘の上にあります。
これは、オーストリア・ハンガリー帝国の時代に建てられたものだそう。
クルージは、ローマ帝国の植民地、ザクセン人の入植、ハンガリーの支配と
様々な国との関わりを経て、他民族の混在する今に至る。
民族問題は、きっと今でも解消できない軋轢があるとは思うけれど、
でも、そういう歴史があったからこそ、それぞれの民族の思いや切なさも含めて、
今の魅力的なクルージの街が成り立っているのではないか、、、と思います。
 人の顔みたいなトンネル。口が入り口。

そんな考えをつらつらと思い巡らせるのに最適なのが城塞のてっぺん。
たくさんのベンチが設けられた頂上からはクルージの街並みが見渡せます。
特に日没の時間はまどろむのにとてもいい場所です。
 
クルージの街全体が見渡せる。  真ん中にあるのは聖ミハイ教会。

城塞を降りて、ぶらぶらしながらレストランを探す。
前に来た時にも感じていたけれど、この街はなぜかピザ屋ばかり。
数歩歩けば「またピザ屋!」その繰り返しなのです。
そんな訳でピザを食べました。賑わっている店で、美味しかった。

食後はスーパーへ寄る。
どんな店よりもスーパーが一番楽しいとさえ感じるのはなぜだろう。
可愛いパッケージのお菓子や美味しそうなジャムが並んでいるのを
見ているだけでうきうきしてきます。
スーパーでは、派手な格好のロマの女の子がいたり、
ルーマニア語、ハンガリー語、英語などが聞こえてきて、
様々な人種の人々がこの街にはいるという事が一番感じられる所でした。
 夜の教会は幻想的で綺麗。

ホステルに戻り、早々とベッドに入る。
明日でルーマニアともさよならしなければならない。
ちょっと切ない夜。

text by : yuki
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ルーマニア旅日記 7日目 3/3 後編
玄関で見送ってくれるマリアに手を振りながらペンシオーネを後にする。
村の中心でヒッチハイクをしようと思っていましたが、
車が通る気配はなし。、、、やっぱり。
仕方ないので、隣にいた男性にシエウの行き先を聞いてシエウ方面に歩き出す。
行きはボティザからあれだけ雪山を超えてきたので、
帰り(違うルート)は余裕をもって半日歩く覚悟で臨む。
ポイエニの村はずれの景色を見ながら、時に放浪おじいちゃんと
握手を交し、一服しながらのんびりと歩く。
 
「日本のタバコをくれよ」 「火は持ってるぞ」(しなしなマッチ)

そろそろポイエニの村も終わりかな、、、と思ったところで
1台の車が通り、若い男性があっさり乗せてくれました。
同乗者が2人いて、よく見るとさっき道を聞いた男性でした。
村の中心で待ち合わせをしていたようです。
車は雪道らしいところは通らず、わりと平坦なドライブでした。
 
まだ子供のまっ黒羊がいた。 こっちを向いた!

嬉しい事に、あっさり乗ってあっさり着いてしまった。
雪山の覚悟が、なんだか拍子抜けという感じ。
わがままなものだけれど、ありがたいのに、なんだかあっけない。

いつも通過してはいたけれど、まだ散策した事のないシエウ村に入ってみる。
村の入り口の、家の前の長椅子にいつも座っているおじいちゃんは
連日に渡って度々目の前を通る私たちに何か声をかけたそうにしていました。
笑みを含んだ表情に少し口をモゴつかせていました。
そんなおじいちゃんに挨拶をして、シエウ散策が始まりました。
 
木造教会が見えた。    稚拙なタッチの正教会のキリスト像が好き。
 
教会は小さいけれど門がとても立派。 透かしの真ん中には十字が。

シエウの教会はすぐに現れました。
こじんまりとした木造教会に無骨な鐘つき小屋。
この鐘つき小屋は中に入れて、大きな鐘を見上げる事ができました。
 
教会の向かいに建つ鐘つき小屋。 脇の墓地には可愛らしい墓標がある。
 
3本の紐をうまく操り、3つの鐘を絶妙なテンポで鳴らす。

教会は、入り口の扉の上に薔薇柄の刺繍クロスが飾られていました。
残念ながら鍵がかかっていましたが、中が覗けました。
お祭りなどに使われる村のシンボルの旗がたくさん保管されています。
村人から寄贈されたであろう様々な刺繍クロスも壁一面にあります。
丹精込めて刺繍する村人の篤い信仰心が伺えます。
また、村人が木造教会をとても大切にしている事がよくわかります。
 
扉にはワイングラスの彫刻が。 扉を飾る薔薇柄の刺繍クロス。
 
窓からの光が仄暗い教会内を照らす。 旗がじっと出番を待っている。

シエウ散策を終え、再び幹線道路に戻って、ヒッチハイクをしながら歩く。
すると、素朴なお家の玄関先で編み物をしているおばあちゃんと目が合いました。
写真を撮ってほしいとちょっと恥ずかしそうに言いました。
おばあちゃんが編んでいるのは、たぶん村人がよく使うトライスタという
麻と毛で織られた手作りの肩掛けバッグの紐部分だと思います。
こんな風にして編むんだなぁ〜とじっくり見とれてしまいました。
感心する私におばあちゃんは、お手のものといった感じで、
スイスイすごいスピードで編んでいました。
 
玄関先で編み紐を作るおばあちゃん。とても器用!

そうこうしているうちに、1台の車が止まってくれました。
運転していた男性は、セバスチャン。29才。とてもよく喋る人でした。
英語を話せるのですが、流暢という訳でなく(こちらも同様ですが)
思いつく限りの英語を呼吸する間もなく並べ続けていました。
よく喋るなぁ〜と圧倒されていると、今度は質問攻めにあいました。
賑やかな車内は、蛇行する田舎道をすごいスピードで進んでいきます。

彼は仕事で出ていて、自宅のあるバイアマーレに帰る途中との事でした。
ブルサナの木造教会に行きたいと告げると、快く乗せてくれたのですが、
どうやら彼はその場所を知らないようなのです。
度々車を止めては道行く人に聞き、あれっ?この辺では、、、?と思ったところを
ひゅんと通り過ぎ、結局Uターンして、やっとの思いでブルサナに着きました。
シエウからブルサナは地図上で目測していたよりもかなり遠く感じられました。
でも途切れない会話のおかげで楽しませてもらいました。

親切で愉快な青年セバスチャン。

ブルサナは、これまで見てきた鄙びた木造教会とは違って
わりと築年数の新しい綺麗な教会が広い敷地内にいくつも建っています。
教会だけでなく、大きな修道院もあります。
まだ建設途中?と思われる建物も見受けられました。
あまりにも広いので、どこから見ていいのやら迷ってしまいます。
 
丘の麓にある大きな門。これが目印です。 丘の上の入り口。
 
教会から帰る途中のおばちゃんたち。青のザディエが素敵。

ひと通り敷地内を回りましたが、これだけたくさんの教会があると
なんだか気持ちが散漫になって心がざわつきます。
丘の上に、木々の中に、村の中心にぽつんと佇む鄙びた木造教会の方が
やっぱりいいなぁと思ってしまいました。
(ここまで苦労して探してくれたセバスチャンには悪いのですが、、、)
 
敷地内には何棟もの教会や修道院があります。
 
変わった様式の井戸がありました。現役なのかな?

ブルサナ教会の入り口には、他の教会付近ではそんな事はなかったのですが、
真新しい建物の中にお土産屋や小さな銀行があります。これには驚きました。
観光名所なのでしょう。そこだけ突拍子もない風景になっています。
村歩きの常の長靴姿(泥付き)がなんだか恥ずかしく感じられました。

こちらは、そんなお土産屋に便乗(?)した近隣の民家の露店。

教会を見終え、少しブルサナの村を散歩しながらヒッチハイクを、、、。
と思っていたのですが、車はすぐに止まってくれました。
少し急いでいる様子の寡黙な男性。ピカピカの高級車に乗っています。
この時も泥付き長靴を申し訳なく思いました。
行きのセバスチャンとは正反対の性格の彼に、
ボグダンまでスムーズに乗せて行ってもらいました。
男性は本当に全くしゃべらず、アメリカンポップスだけが車内に響いていました。
綺麗に磨かれた窓から夕暮れ時のマラムレシュの風景を見つつ音楽を聞いていると
ロードムービーの一場面のような気がしてきます。
自分で体感しているのに、遠くから客観的にスクリーンを見ているみたいな気分。
それだけ桔梗色のマラムレシュは映画的でした。
 屋根の上から飛び立たんばかりの鳥飾り。

久しぶりのボグダン。帰ってきた!という懐かしい気持ち。
とはいっても昨日の昼までいたのだから、時間の流れは不思議だ。
日本で過ごす、変化のないあっという間に過ぎる1日とはまるで違う。
ブシュタ家のペンシオーネでは、例によって愛犬ララが熱烈なお出迎え。
そしてパパ、ママが迎えてくれました。「ただいま」と言えるのが嬉しい。
ママは夕食用なのか、ずっしりとした肉の塊を手に持っていました。
夕食まで少し時間があったので、ボグダンを散歩する事にしました。
荷物を置いて、夕刻のぶらぶら散歩に出かける。
 夕暮れの民家の庭先。

少しずつ日が落ち始めている頃、歩いていたらイザ川に出ました。
小さな橋からは夕日が今にも川の先に沈みそうになっているところが見えます。
なんとも侘しい、切ない風景です。
でもこの切なさがなんだかいい。日暮れの時間って淋しいけど、いい。
 イザ川に沈む夕日。

橋のたもとでは、ひとりのおばあちゃんの姿が見えました。
どうやら洗濯をしている様子。パチャパチャ音が聞こえます。
近づいてみると、ずいぶん年季の入って角のとれた洗濯棒を使っています。
洗濯棒は柄の短く厚い木べらのようなもので、
濡らして石鹸をつけた洗濯物を石の上に置き、これでたたきます。
天然繊維の綿や麻や毛は、たたく事によって傷むどころか、
繊維が強く丈夫になっていくそうです。
まさに、おじいさんは芝刈りへ、おばあさんは川へ洗濯に、、、
という昔話そのままの生活を営んでいるんだなぁと実感しました。
 
川で洗濯をするおばあちゃん。こちらに気付いて笑顔を見せてくれた。
 
てきぱきと洗濯物を片付けます。 プラニエという洗濯棒。

そこから少し歩くと、遠くで白いものがポーンと飛び上がったのが見えました。
近づくと今度は白と黒がポーンポーンと飛んでいます。
駆け寄ってみると、それは子羊でした。
斜面を駈けては跳ね上がっているのです。
「はねっかえり子羊」と言われる意味がよく分かりました。
毛でむくむくの大人の羊はのっしりしているけれど、
小さく軽い子羊は1メートルくらい飛ぶのです。
 
小屋に入る前の羊たち。      子羊は元気いっぱい。

ここは、たくさんの羊を飼っているご夫婦の羊小屋でした。
ちょうど羊を集めて小屋にしまうところ。
私たちが乱入してしまい、まとまりがつかなくなってしまったようですが、
笑顔で近づいてきて、子羊を抱かせてくれました。
温かくて、ほんのりミルクの香りがします。
眠たそうな大きな目とピンクの鼻がなんとも可愛い。
動物好きの私としては、天にも昇る気持ちでした。
 
おばちゃんが子羊を抱いて来てくれました。小さくて可愛い!

さらに歩き進むと、昨日動物市が開催されていた空き地に出ました。
人がいないと、こんなにも殺風景でだだっ広く感じるものなのか。
昨日の熱気はどこへ、、、。閑散としていました。
だいぶ暗くなったので、そろそろペンシオーネへ戻ろうと
来た道を引き返していると、先程の羊飼いのご夫婦に会いました。
仲良く並んで橋を渡って帰るところでした。
カメラを向けるとにっこり笑顔で肩を組んでポーズをとってくれました。
いくつになってもこんなに仲良しでいられるって素敵だなぁと心底思いました。
 
とっても仲睦まじい羊飼いのご夫婦。

ペンシオーネに着いたらすぐに夕食となりました。
今晩はシュニッツェル!ウィーンでよく食べました。
ここでもそのままシュニッツェルと呼ぶそうで、ポピュラーな食べ物のようです。
さっきママが持っていた肉片はこのシュニッツェルに変わったのですね。
味がしっかり付いていてサクサク。とっても美味しかったです。
付添えのマッシュポテトも絶品でした。
 
トマトベースのチョルバ。 シュニッツェルとマッシュポテト。

ついに、マラムレシュ最後の夜となりました。
ずっと憧れていたマラムレシュ。
新築の家や若者の最新のファッションなど近代化はそこかしこに感じられましたが、
それでも素朴な部分は充分に残っています。
古い樅の木の家や民族衣装などに期待してしまいがちですが、
伝統的でも近代的でも、なによりも心を打たれるのは、
人そのものがあたたかくて素朴なことです。
優しくて親切でフレンドリーな村人に会いにまたここに来たいと思っています。
 村の大通りになびく三角旗。

text by : yuki
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ルーマニア旅日記 7日目 3/3 前編
朝8時。
昨夜約束していた朝食の時間です。
10時間ちかくも泥のように眠ってしまった私たち。
旅中こんなに睡眠をとる事なんてまずないのに、
マラムレシュは、す〜っと就寝を誘う不思議な場所である。
 ポイエニの朝。

1階の居間に降りると、昨日と変わらない優しい笑顔で
マリアが迎えてくれました。マリアはいつでも笑顔を絶やさない。
「おはよう」と挨拶を交した次の瞬間にはすぐに朝食の準備ができていた。
こちらの人はなんでも手際がいい。
机を前にじっと座って深く考え込む事や頭を悩ませる作業があまりないからか、
いつでも何かしら立ち回りよく働き、そのうえ要領がいい。
 
ボリュームたっぷりの美味しい朝食。 花柄のコーヒーカップが可愛い。

昨夜のメニューに加え、パンとプラムジャムに目玉焼き、ソーセージ、
飲み物は水、牛乳、コーヒー、フルーツティーとなんでも揃っています。
昨夜も出てきて感動したのは手作りケーキ。
村にはレストランはおろか、ケーキ屋さんなんてないので
ここで美味しいケーキが食べれるとは思わなかった。
ママは「ノンスーパーマーケット!」としきりに言っていて、
全て手作りという事を料理を運ぶ度に説明してくれます。
スポンジや生クリームも新鮮な卵や牛乳を使って作っているみたい。

昨日と合わせて1人10個くらい食べた。信じられないほど美味しいケーキ!

朝食後は、ポイエニの村を散歩する。
地面には雪が残っているけれど、よく晴れた気持ちのいい天気。
マリアに見送られ、何も持たずに手ぶらでの散歩は気楽で楽しい。
 マリアのペンシオーネ。

出て早々、民族衣装を身につけたおばあちゃんに出会いました。
おばあちゃんは手に糸繰り棒を持っています。
飼っている羊の毛をきれいに洗って、棒に巻き付けて
そこから少しずつ指先で縒って毛糸にするのです。
この”糸繰り姿”を見かけたのは後にも先にもこのあばあちゃんだけでした。
散歩しながらも、おしゃべりしながらも糸を繰るおばあちゃんの姿。
麗しい、ルーマニアの田舎らしい光景です。
ここのおじいちゃん、おばあちゃんはとても元気!
家畜の世話や畑仕事、お酒やジャム作りなどに余念がないといった感じで、
忙しそうに元気に働く姿をよく見かけます。
  
糸繰り棒を持ったおばあちゃん。 刺繍クロスの洗濯物。
 
繰って糸にしたものが干してあった。これが上のクロスや衣服などに変身する。

他の村同様、特別見ものがあるわけではないけれど、村を一周してみる事にした。
まずは、やっぱり木造教会へ。これを見ない事には始まらない。

教会へは、白亜の立派な新しい教会を横目に小高い丘の上へと登って行きます。
一面の雪の中に焦茶色の尖った頭をぬっと出しているのがポイエニの木造教会です。
教会の周りを大きくぐるりと囲んでいる柵に沿って点在している屋根付きの門を
くぐって敷地内へと入る。その中には、教会、四阿、墓地があります。
教会は扉が開いておらず、中には入れませんでした。
この教会は内部のフレスコ画が素晴らしいそうなのでとても残念。
 
丘の斜面に建つ木造教会。 お隣のとんがり屋根の四阿。
 
木造教会の入り口の門。日陰には雪が残り、日向はすっかり溶けていた。

教会のすぐそばの四阿のような掘建て小屋の椅子に腰掛ける。
太陽の光が反射する雪の眩しさに目を細めながら
教会を見上げたり、何をする訳でもなくぼんやりする。
すると、女の人が何かを大事そうに抱えてすぐ近くを通りかかった。
「こんにちは」と挨拶をして近づくと、腕に抱えられていたのは子羊でした。
生まれたばかりの可愛い子羊。腕の中でじっとしています。
頭を撫でると、温かくしっとりとしていた。本当に可愛い!
村では、動物たちに自然と触れあえるのがとても幸せ。
 
長椅子と机。ここでトランプに興じるのかな。こんなに素敵な独り掛けの椅子も。
 
腕に抱かれた可愛い子羊。 こちらはパンダ顔の羊。

教会でのんびりした後は村をぶらぶらとあてもなく散歩する。
小さな村は、真ん中にイザ川が流れ、木造教会あたりが高台になっている。
馬車の車輪が通った後の硬く固まった雪のわきの新雪の上をポフポフ歩く。
村人と挨拶を交すと、挨拶以上の言葉が返ってくる。
「どこから来たの?」「どこに泊まっているの?」
「ああ、マリアのところね」「よく眠れた?」
「あなたたち結婚しているの?」
と、みんなだいたい同じ事を聞いてくる。
「結婚しているの?」の問いには、必ず両手を軽く握って人差し指を出し
少し曲げてフック状にして人差し指を絡ませたジェスチャーをする。
これが”結婚”という意味らしい。
ひと通り聞くと満足してまたもとの仕事に戻る。
ここの村人は人懐っこくて、あたたかい雰囲気に包まれています。
 
自分がすっぽり入ってしまいそうな大きな鍋を背負ったおばあちゃん。
 
オピンチをはいたおじいちゃん。これから畑に向かうおばあちゃん。

学校の前を通ると、小さな子から大きな子まで一緒くたになって
校庭で遊んでいました。ちょうど中休みだったのかな。
カメラを向けると、はにかみながらも嬉しそうに笑顔を向けてくれる子供たち。
みんな素直で可愛い。
 
子供たちはカラフルな防寒服を着ています。鮮やかな色が好きみたい。

そうそう、この村は”ポイエニ”と通称で呼んでいるけれど、
正式名称は”ポイエニレ・イゼイ村”です。
昨日歩き通したボティザ村の分村なのです。
ポイエニとは、森の中のぽっかり開けた空間という意味らしい。
四方を森林に囲まれたこの村にはぴったりの名前。
実は、ポイエニ村の歴史は1人の罪人から始まっているのです。
ボグダンから軽い罪を犯した男性がポイエニの丘に身をひそめ、
時効になってから家族や親族や仲間を呼び寄せたという。
彼は名前を改名してイリエシュという姓に変えた。
そのため今でも村ではイリエシュ姓が最も多く、
ペンシオーネの家族もその中に含まれ、イリエシュ家の末裔という事になる。
マリアからイリエシュという名字を聞いた時、おお〜!と心の中で思いました。
もとをたどれば皆親族という事になるので、なるほど村に一体感がある訳です。
 
「写真を撮って!」とおばあちゃん。編み物ポーズで写りたいとの事。
 
入り口の小さなおばあちゃんの家。ポットツリーならぬバケツツリー。 
 
家の隣には家畜の飼料を貯蔵する小屋があり、息子さんがそこに飼料を入れ込む。

民家は、昔ながらの樅の木の家が他の村よりも多いように思いました。
素朴な家を見つけるたびに嬉しくなる。
日本も、風情のある古民家が減少していくように、こちらでもまた、
同じように樅の木の家はかなりのスピードで減っているようです。
マラムレシュの田舎の景観が変わってしまうのはとても淋しいですが、
誰にも止める事ができない現実です。
 
古い木造家屋。家の前の大きな樽は自家製のお酒(ツイカ)かな?
 
樅の木の家の象徴、花模様の柵。光を通したこの模様を見るのが好き。

いろいろな村人に出会って村を一周したら、お昼になっていた。
ペンシオーネへ戻るとマリアが「お昼は食べる?」と聞いてくれる。
朝食をお腹いっぱい食べたので、まだそんなに空いていない。
断ろうかなと思ったけれど、せっかくなので「少しだけ」と答えた。
そして着席すると、あれよあれよという間に机の上がいっぱいになった。
朝のメニューに加え、見た目はちょっとインパクトが強いのですが
食べてみるとすごく美味しい腸詰めが出てきました。
お肉とお米が詰まっています。これももちろん手作り。
茹でたてでプリプリしていて美味しかった。
漬け具合のちょうどいい野菜のピクルスも美味しい箸休め。
再びお腹いっぱいになった。
 ペンシオーネの昼食。

帰り道のルートを検討してから、マリアに別れを告げる。
マリアは淋しそうな表情で「次はいつ会えるの?」と聞きます。
「また来年訪れたい」と言うと、ぱあっと嬉しそうな表情に変わる。
もちろん社交辞令のつもりはなく、また絶対にここの村に、
このペンシオーネに、マリアに会いにに来たいと強く思いました。

再会した時はきっと、マリアは大喜びしてくれるはずです。

text by : yuki
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ルーマニア旅日記 6日目 3/2 後編
ヒッチハイクをしながらいつもの幹線道路を歩く。
気温は低いけれど、やわらかい暖かな日差しが降り注ぐ。
しばらくすると、大きな車が止まり、男の人2人組が乗せてくれました。
そのすぐ後に道路を歩いている女の人を乗せました。知り合いのようです。
こうして、知り合いに気軽に声をかけて目的地まで送ってあげる。
村人たちの付き合いの濃密さやごく自然な親切心が伺えます。
車は隣村のシエウまで走りました。シエウも面白そうな村です。
そこからまたヒッチハイク。
若い男の人の車がすぐにとまってくれました。
 
屋根の大きな木造の家。  庭にはポットツリーがありました。

その車は目的地のポイエニのひとつ手前の村で止まりました。
ボティザ村という、やはり幹線道路から外れた素朴な村。
ここの木造教会も素敵で、丘の上にちょこんと建っています。
こじんまりとした教会とは裏腹に、
大きく立派な木彫りの門が行く手を遮っています。
 威厳のある木彫りの門。

門の端の小さな扉から中へ入る。
凍結してつるつるの斜面をスケートリンクさながら滑って転びながら登る。
可愛らしい小さめの木造教会と隣には鐘つき台が。
木造教会は、写真で見るとどれも同じように見えるのだけれど、
実際に見てみると、その形体は村々で全く異なります。
大きいのから小さいのまで、屋根の形や尖塔の高さ、
どれひとつとして同じものがないように思えます。
  
丘の上の木造教会。    高台にある教会からの眺め。

ボティザの木造教会は窓ガラスが入っておらず、中の様子が覗けました。
教会内部は3部屋で構成されていて、祭壇の奥の小さな部屋の
”内陣”は司祭しか立ち入れない聖なる場所です。
”中陣”は、かつて女性が入ってはいけないとされていたところです。
今は女性も入れるようですが、男性がミサに参加していた部屋。
手前の”下陣”は女性がミサを行っていた部屋。と、このように分かれています。
ちなみに2階席がある場合は少年の部屋。
それぞれミサに参加する部屋が分かれていたのは面白い。
神聖な場所なので、写真を撮ってよいものか迷ったけれど、
敷き詰められた絨毯に、うっすらと残る壁画、、、
映った内陣は青く神秘的な空間で、貴重な一枚が残せてよかった。
 
教会の一番奥の小さな空間”内陣”。 ”中陣”にはたくさんの蝋燭が。

教会の門を出ると、小さな小さなおばあちゃんに遭遇しました。
白雪姫と七人の小人に出てきそう。(もちろん妃役でなく小人役)
私が150cmちょっとなので、130cmくらいかなぁ。
こちらの人は、背はそんなに高い印象はないけれど、
みんなふくよかでまんまるな体型の人が多いです。
体型から見て取るに、経済的には分かりませんが、
豊かな暮らしをしているのだと感じます。
 
小柄な私より小さい。   可愛らしいおばあちゃん。

さて、ここからが問題です。
スムーズにボティザ村まで来れたのはいいのだけれど、
この村は車の往来がほとんどない。
村人にポイエニに行きたいのだけれど、、、と言うと、
「ここから5kmくらいよ。歩いて2〜3時間くらいかしら」とさらりと言う。
「2〜3時間歩く」と普通に言えるってすごいなぁとある意味感心してしまう。
 
木の壁や柵に模様をくり抜いてある家が多い。花柄の透かしが美しい。 

いつものように歩きながらヒッチハイクをして目的地に向かう事にした。
イザ川沿いに、可愛らしい民家や家畜を見ながらゆっくり歩き出す。
しばらく歩いても通るのは馬車だけ。
馬車もヒッチハイクしていいのだろうか、、、。
一度乗ってみたいけれど、山盛りの干し草を乗せた上に座る自身がない。
悪路になぎ倒されそうな馬車は奇跡的なバランスでうまく進んでいる。
そのバランスの邪魔をしてしまいそうで、まだヒッチハイクはできずじまい。
 
通るのはほとんどが馬車。 干し草をこれでもかというほど乗せている。

1時間も歩くと村の中心から離れた様子で、
民家が密集しているところは過ぎ、道路沿いに建ち並んでいるだけ。
村の民家は面白い事にどこの家にも小さな屋根付きの長椅子があって
よくおばあちゃんたちがおしゃべりをしていたりするのですが、
歩き疲れた時に休憩できるのがなんとも嬉しい。
ビスケット(1袋15円!)をかじりながら休憩して、また歩き出す。
 見かけると座りたくなる長椅子。

1時間も歩いてしまうと、ヒッチハイクはもう難しいなと感じ始める。
そう思うと、ハイキングという心持ちで改めて歩き出すと楽しくなってくる。
天気もよく、小高い山も現れ、羊の放牧も見られた。最高のハイキング。
 
やわらかい光が降り注ぐ広い牧柵。  遠くに木造教会が見えた。

2時間歩いたところで、舗装された道路はいつの間にか消え、泥道になった。
山の影になっているのか、日が当たらず、雪がたくさん残っていて肌寒く、
道はどろどろにぬかるんでいた。
ボティザ村はかなり広範囲のようで、一度民家が途絶えて山が見えたので
そろそろポイエニかな?と思い、ようやく会った人に聞いてみると
「まだボティザだよ」と言われる。そんな会話が何度かあって、
初めて岐路に出くわした。これまで1本道だったのです。
そこにちょうど郵便屋さんが通りかかり、道を教えてくれました。
右へ行くとポイエニとの事。これは教わらなければ分からない。
郵便屋さんは少し先へ進んでからもう一度大声で「右だよ!」と念を押した。
視界からいなくなるまで心配して見ていてくれる村人の優しさが好きだ。
 
雪の面積が多くなってきた。 クライエ(干し草の山)は田園風景の象徴。 

この辺りからさらに雪深くなり、地面の色が見えなくなった。
こんな村はずれにもペンシオーネの看板があり、少しホッとする。
もし、ポイエニに辿り着けなくてもここに戻ってくれば宿はある。
そんな事を思っていたら、また小さなおばあちゃんに遭遇した。
おばあちゃんは琺瑯のお鍋がたくさん干してある樅の木の家に住んでいて、
琺瑯好きの私は、いさんで写真を撮らせてもらった。
木の家と琺瑯の鮮やかでいて懐かしい色の取り合わせが好きなのです。
すると、おばあちゃんは家の中に招き入れてくれました。
 
水汲み中のおばあちゃんに出会う。素朴な木の家に住んでいます。
 
外壁には琺瑯のお鍋がずらり。こうして洗ったお鍋を乾かすのです。

室内は、田舎に多い空色の壁。
神が住んでいるであろう空の色に塗られるのです。
入ってすぐに竃の台所があり、その隣にはベッドが。
台所が寝室になるなんて、なかなか考えられませんが、
こちらでは竃が暖房代りになり、その側で寝るのは暖かく心地いいのです。
それにしても可愛らしい台所。いや、寝室です。
 
台所兼寝室のブカタリエと呼ばれる空色の部屋。
 
部屋には靴下がちょこんと干してあった。 室内にも琺瑯鍋が。

隣の部屋では、娘さんでしょうか。
織り機を使って絨毯を織っていました。
絨毯といっても、床に敷くだけでなく、壁飾りやクロスにも使われます。
織られていたのは、マラムレシュ独特の伝統的な模様でした。
かつては1家に1台織り機は必ずあったそうですが、今はどうなのでしょう。
でも、こうして若い女性が今も織り機を使っているのは、
異国人ながらとても嬉しい事です。ずっとずっと使い続けてほしい。
このお家で小さな赤いトライスタ(肩掛けバッグ)を譲ってもらいました。
以後それはアパ(お水)入れに大活躍しました。
 
小気味良いリズムで一糸一糸丹念に織っていました。
 おばあちゃん、さようなら!

このお家を最後に民家はぱったりなくなってしまいました。
ボティザ村はここで終わりなんだなとついに確信しました。
ちょうど3時間くらい歩いたころでしょうか。
もう歩いても歩いても雪山だけになりました。
すでに馬車も見かけませんし、人っ子一人通りません。
日もだんだんと傾いてきて、寒く、さすがに心細くなってきました。
山は緩い傾斜を登ったり下ったりして、一行に次の村は見えない。
 
薄暗い雪山は日陰の世界に入り込んで抜け出せないような気分だった。

そんな極限状態の中、一番傾斜のきつい山を登りきり、
木々で覆い隠れていてはっきりとはわかりませんが、
もしかしたら下に村があるのでは、、、という期待がよぎった時、
風で葉がざわざわ揺れているような、川のざあざあという水面の音のような
なんだか聞き慣れない音が聞こえてきました。
まさか、まさか、車のエンジン音?
2人とも呼吸を止めて耳を傾けてみますが、やっぱり勘違いのようでした。
再び歩き出して、今度は山を下ろうとした時に
今度ははっきりと車のエンジン音が聞こえたのです。
まさか、こんな雪の道を?急な斜面を?どうやってここまで?
いろんな疑問符が浮かんできたところで、小さな赤い車が見えました。
車は、歩くよりもゆっくりと坂を下ってくるところでした。
とっさに、諦めてポケットにしまっていた”ポイエニ”と書かれた
ヒッチハイク用の紙を取り出して掲げました。
車は紙を見る前に止まってくれたように思えました。
岩に片車輪が乗り上がり斜めに止まった車は、
運転手のおじちゃん1人で、後ろには荷物が積まれていました。
荷物を寄せて快く乗せてくれて、でこぼこの雪道を跳ね上がりながらも
慣れた様子で、さすがの運転術。あっという間に村に着きました。
歩いていたらさらにもう1時間くらいかかっていたような気がします。
 赤い車で日向の世界に辿りついた!

おじちゃんは村の中心で降ろしてくれて、ペンシオーネの場所まで教えてくれた。
でも、そのペンシオーネは暖房が壊れているとかで泊まれず、
もう1軒のペンシオーネへ向かった。
辺鄙なところにある小さな村なのに、ペンシオーネはいくつかあるようです。
少し歩いて、「この辺にペンシオーネはありますか?」と聞いたら
「ここよ!」と言われた。さらに優しい笑顔で「いらっしゃい!」と。

ここはマリアというママがやっているペンシオーネで、
パパのバスィレは半農半牧を営み、娘のイリアナは小学生。
高校生の息子さんもいるそうで、彼は都市で生活をしているそう。
おばあちゃんはお隣の離れに住んでいます。
このイリエシュ家に1泊させてもらう事にしました。

家に上がってすぐに家族が集まってきて、挨拶をしたり、握手をしたり
満面の笑みで手厚く歓迎してくれる。
さっきまで雪山の中を心細く歩いていた私たちは涙腺が緩みそうになる。
すぐに「お腹空いてない?」と聞いてくれて、
ツイカで乾杯をした後に、あっという間に夕食の支度をしてくれた。
 何はともあれツイカで乾杯!

熱々のスープが喉を通ると、「あぁ生きてるなぁ」と感じる。
大げさだけれど、さっき1台の車が通らなかったらこの食事には
まだありつけていなかったし、本当にどうなっていたか分からない。
酸味のきいたチョルバの後はまたここでもサルマーレがでてきた。
ブシュタ家とはまた違った味で、とっても美味しい。
かなり空腹だったので、信じられないくらいたくさん食べた。
 各家庭で味が異なるサルマーレ。

食後は、2階に案内されました。
一旦外に出て、違う階段から2階に上がります。
外は真っ暗で、真の闇。星がびっしりと夜空に張り付いているように見える。
星の大小がはっきり見分けられて、こんなにたくさんの星を見たのは初めて。

2階には広々としたこぎれいな寝室があり、その部屋を宛がわれました。
イリエシュ家はとても綺麗に手入れをされていて、新築のように見えます。
部屋はもちろん、台所も、お風呂場もピカピカ。
働き者のママの性格が出ています。
 部屋には暖炉があってぬくぬく温か。

お風呂は水風呂になる事もなく、快適に入浴できて、すぐに寝てしまった。
まだ9時頃だったように思います。
たっぶり歩いて、たらふく食べて、ぐっすり寝る。
普段の生活ではなかなか満たせないような部分が満たされる。
そう、ここでの暮らしは”満たされる”という言葉が一番しっくりくる。

text by : yuki
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ルーマニア旅日記 6日目 3/2 前編
ブシュタ家のペンシオーネの朝。
おやすみの挨拶もそこそこに電気をつけっぱなしで寝てしまった。
前々日の夜に徹夜をしたまま、たくさん歩いたので
相当疲れていたのだと思う。お風呂も入らぬままだった。
朝、お風呂を借りたのだけれど、前夜に先に入った夫が
青ざめて出てきたのを思い出した。途中で水風呂になったと言う。
泡だらけの体を流せぬまま拭いて出てきたらしい。とても寒そうだった。
私もクルージのホテルのシャワーが途中で水になり、
凍える思いだったので、お風呂を借りるのがちょっと怖い。
お風呂場には大きなタンクがあって、温度計のようなものが付いています。
タンクのお湯がなくなると水風呂になってしまうのか、、、よく分からない。
でも、朝風呂は運良く始終お湯が出てとても気持が良かった。

今日も天気がよくて本当に気分がいい。
ホテルでは味わえないのどかな朝。庭からは鶏の朝の挨拶が聞こえる。
パパが「Good morning!」と言いながら朝食を両手に抱えて入ってきた。
あっという間に机の上がいっぱいになる。
飼っている鶏から採れた新鮮卵の目玉焼きや昨晩の夕食のサルマーレ、
パンとすもも(プラム)ジャムに、朝からツイカまである。
どれも美味しくて幸せな気持ちになる。
 
サルマーレは毎食でも飽きない。 手作りのプラムジャムが美味しい。

身支度を整えていると、通りから馬車の行き交う音が絶え間なく聞こえる。
パッカパッカパッカ、、、モォ〜ォ、、、ピギーピギー、、、
馬の蹄の音だけでなく、様々な動物の鳴き声が聞こえる。
目の色を変えてペンシオーネを飛び出すと、そこには不思議な光景が広がっていた。
 まぶしい朝日の中を歩く人々。

道いっぱいに馬車や牛車、荷台に豚や羊を乗せたトラック、
各々の家畜を引っ張ったり、誘導したりする人でごった返していました。
そう、今日はこのボグダン・ヴォーダで動物市が開催されるのです。
動物市とは、家畜の売買や交換をする市場。
決まった村で決まった曜日に開催されています。
ここは第一月曜日に開催され、大きな市場のためたくさんの人で賑わいます。
ボグダン・ヴォーダに来た理由のひとつはこの動物市を見たかったからです。
 
たくさんの馬車が通りを行き交っていた。

動物たちの行列について行くと、木造教会の手前の路地を曲がった。
曲がった先はだだっ広い空き地になっていて、
そこには驚くほどたくさんの動物たちがいました。
馬や牛たちは寒そうに白い息を吐きながら大人しくじっとしています。
 
馬たちは綺麗に飾り付けられている。 背中に掛けられた織物が素敵。

動物たちの間を縫って進むと、ピギーッピギーッというけたたましい鳴き声が。
豚が麻袋に詰められるところで、必死に抵抗しています。
抵抗もむなしくすっぽり袋に収められ、今では麻袋がもごもご動いています。
こういった取引があちこちでされています。
  
子豚に、子牛。その表情はどことなく淋しげ。

動物市の奥には日用品市もあります。
食品や、植物の種に球根、鍋からほうき、自転車まで何でも揃います。
衣料品は民族衣装から古着まで様々。靴屋も帽子屋もいます。
動物市は眺めるだけですが、ここでは様々なものが買えて楽しいです。
 
お鍋は地面にじかに。タイツは柵に。陳列方法も面白い。
 
ロマの姿も見かけた。 この特徴的な派手な格好はよく目立つ。

特に民族衣装に合わせる伝統的な靴、オピンチ屋さんがあり、
独特な形をしたオピンチを選ぶのが面白かった。
オピンチを試着した夫いわく「雲の上を歩いている気分」だそうです。
冬が長く、雪やぬかるんだ道を歩くのに適しているオピンチは、
若者はほとんど見かけませんが、年配の方が履いているのをよく見かけます。
羊毛で出来た温かい布を巻いて、編み上げの紐をぐるぐる巻いて、、、
その姿がなんとも微笑ましい。ここの土地の人はオピンチが本当によく似合う。
 
オピンチ屋の店主が紐をつけてくれた。子供から大人まで様々なサイズがある。
 お洒落なおじさんの足下はやっぱりオピンチ!

広い青空市はたくさんの人で溢れかえっていて、
友達同士でおしゃべりをしたり、熱心に品定めをしたり、
子供を引き連れて我が子に合う服を見立てたり。市は活気に溢れています。
大勢の人がいる中で、ふいに声をかけられました。
昨日イエウド村で豚を見せてもらった家具職人のおじさんです。
「やあ!こんなところで」と気軽に声をかけてくれる。
偶然にもこれだけの人がいる中で知り合いに会えて嬉しい!
市には、特別入り用のものがなくても、誰かしらに遭遇できるので
わざわざ遠くの村から出向く人も多いらしい。一種の社交場となっています。
 
食材の市場は一番賑わっている。 新鮮な野菜や果物が山積み。
 
民族衣装のしましまエプロン、ザディエをつけているおばあちゃん。

市場の中央にはミティティ(ルーマニア風肉団子)の屋台があり、
辺りに煙といい匂いを漂わせています。
美味しそうな屋台を前に、通り過ぎる事ができず少し早めの昼食をとる。
ミティティと大きなソーセージとビールを頼む。
ミティティにはその量に見合っていないほどの大量のマスタードが付いてきた。
たっぶりのマスタードをつけて食べるのがルーマニア流らしい。
屋台の脇には即席のテントが張られ、その下には机と椅子が用意されていました。
平日の昼間からみんなビールを片手にミティティをつまんでいます。
椅子はほぼ満席で、みんなお隣同士と賑やかにおしゃべりをしています。
 
ミティティの屋台。恰幅のよい店主が焼いているからなお美味しそう!
 
これがミティティ。パン付き200円。こちらはソーセージ。パン付き200円。
どちらも安くてジューシーですごく美味しい!

私たちが座った目の前には、これまた昨日会った人が座っていました。
ここの村に着いた時にマガジンで一緒にリキュールを飲んだおじさんです。
おじさんは「よくぞここに座ってくれた」といった風で、
握手をしてにこやかに何度も頷いています。
こうして私たちの顔を覚えてくれる人がいるのが何とも嬉しい。
たった数日の滞在でも、ここに友達がいるような気持ちになれる。
 
ミティティとおじさん。  ソーセージとおじさん。(延々おしゃべり)

おじさんと昼食を共にしてから、もう一周散歩をする。
それまで気が付かなかったけれど、動物市の先には川があった。
イザ川だ。マラムレシュの村々はイザ川に沿って続いている。
川には大きな橋がかかっていて、そこから市の様子がよく見えた。
昼過ぎにはもう動物の取引は終了して、次々と家畜を引き連れて帰って行く。
利かん坊の馬に手こずったり、子羊がはぐれたりと橋の上から見ていると面白い。
 穏やかに流れるイザ川。
 
暴れ羊に手を焼く牧童。 やっと群れはまとまり橋を渡り帰っていった。

ペンシオーネに戻って、さて、次の村に移動しようと意を決める。
マラムレシュの中でも幹線道路から外れに外れた村、ポイエニへ行く事にした。
辺鄙な寒村だけれど、無事に辿り着けるのか、、、。
必要最低限の荷物を持って、それ以外はペンシオーネに置いてもらう事にした。
明日の夕方に戻ってくると告げて、再びボグダン・ヴォーダを離れる。
 
今度は市場から帰る人々でごったがえす幹線道路。
みんな上機嫌でホクホク顔をしている。

また次の村へと向かう。
今度はもっと奥地の村へ。
なんてのびやかで楽しい旅路なんだろう。

text by : yuki
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