2016.05.20 Friday
小さな映画館 avec Cabinet Fantastique
「これから えいがが はじまります」
子供たちがはにかみながら開会宣言をして
3回目の小さな映画館は幕を開けた。
上映会が決まった時、始まりの挨拶を息子にやらせてみようと思い立った。
息子もやる気満々で毎日練習を重ねていたが、練習のやり過ぎか緊張か
「これらっえいがっはじまりっす」と日を追うごとに早口になっていき
息子自身も吹き出してしまうほど、どんどん下手になっていく。
これでは何を言っているのかさっぱり分からない...と心配していたところ
路川さんの娘のもとちゃんも一緒に始まりの挨拶をしてくれることになった。
無事に開会宣言ができてほっとしていると
映写機がカタカタと音を立てながら回り始めた。
軽快な音楽のアニメーションや瞬きを忘れてしまうほど圧巻のミュージカル映画、
笑いがこぼれるコメディ...と色々なフィルムが次々とスクリーンに映し出された。
お客さんの手元に配られた”本日のメニュー”と題された映画の演目表が
アトリエをより映画館らしい雰囲気にしている。
あさこさんが描いてくれたシルクハットに蝶ネクタイの紳士の挿し絵がまた可愛い。
一本上映が終わるごとに岡田さんがフィルムをキュルルーと巻き上げる。
その間に路川さんが映画の解説をしてくれるという一風変わった上映会。
それもアメリカのアニメーションが流れた後に声優のおじいさんの画像が現れて
「大の犬好きだったという情報があります」というあまりにもマニアックな解説。
岡田さんはフィルムを巻き上げ、次の準備が整うと路川さんに合図を送るだけで
一言も声を発することはなかったが、スクリーンを見つめるお客さんたちを
一番後ろの席から静かに見守ってくれている気がした。
この独特な雰囲気がキャビネ・ファンタスティクの魅力だと思う。
お客さんも興味深い職種の方ばかりだった。
フォトグラファー、ファッションデザイナー、グラフィックデザイナー、
イラストレーター、古本屋の店主、活動弁士、レコード文化研究家...と様々な方が
キャビネ・ファンタスティクに惹き付けられて佐原まで足を運んでくれた。
仙台から5時間もかけて上映会のために駆けつけてくれた方がいたのには驚いた。
映画好きの大人にとってはもう最高に面白い時間だったけれど
子供にとってはどうかなと顔を覗くと、真剣な眼差しでスクリーンを眺めては
何度も後ろを振り返って、くるくると回るフィルムを見つめて
「じてんしゃみたい」と言ってまた不思議そうにスクリーンに顔を戻していた。
顔を黒塗りにした同じ年くらいの子供が出てきたシーンでは
子供たちがざわついて、くすくす笑い合っていたのも微笑ましかった。
休憩時間になると、菜々さんが花型や馬型のクッキーの詰め合わせを
さっき摘んできたばかりのデイジーを添えてバスケットに用意してくれた。
可愛らしい型抜きクッキーの中にはプレッツェル型もいくつかひそんでいる。
子供も大人も映画の世界から抜け出したようなクッキーに夢中になっていた。
後半の上映も終わり、子供たちがまたそろそろと前に出て声を揃えた。
「これで えいがを おわります ありがとう ございました」
息子は閉会宣言の練習はしていなかったので少し慌てていたが
始めと終わりの挨拶ができたことが誇らしかったようで
上映会が終わってからもずっとそのことを口にしていた。
また近いうちに映写機でのフィルム上映会ができたらいいなと考えている。
古い洋館でこんな感動を味わえるなんて幸福としか言いようがない。
アトリエに残されたクッキーの包み紙とデイジーの花束が
夢のような一日を物語っていた。
photo by : nana hoshiya
text by : tetsuya
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